片付けたいのになぜかできない!更年期の葛藤の根底にあるものは?

人生の折り返し地点が見えてくる40代。「これからの人生をより良く生きるために、今何をすべきか」を考える時期に差し掛かります。また、以前とは体形も変わってくることもあり、クローゼットの着なくなった洋服など、生活における無駄を削ぎ落として必要な物だけを残す整理をしはじめる人もいるでしょう。
しかし、いざ片付けを始めてみると、「どうしても物が捨てられない」と苦しむパターンがあるようです。

心理カウンセラーの半澤久恵さん曰く、「片付けたいのに片付けられない」というジレンマの根底には、特定の物、または「片付ける」行為そのものに投影される「思い」の存在があるといいます。「思い」を可視化し、一歩踏み出すための方法について、半澤さんに教えていただきました。

片付けたいのに片付けられないのはなぜ?

――40代は、「身の回りを整理して次のステージへ」という気持ちを抱く時期ですね。

そうですね。自分の物はもちろん、子供の物、家族の物など、年々増えていく物の整理・収納に悩み、処分を決意する人も多いと思います。ところが、片付けたくても「どうしても行動に移せない」「物を捨てることができない」と気持ちが落ち込んでしまう方も少なくありません。

片付けたい、きれいにしたいという気持ちは人一倍強くて、ノウハウもあるのに、なぜか実行できない。やろうとしても体が動かない。そのままにしておくと、散らかった部屋が嫌でも目に入って、いたたまれない気持ちになるし、家族にも指摘されるし...と思い悩んで相談にいらっしゃいます。

中には、やりたいと思っていることができないつらさだけでなく、ほかの人が当たり前にできていることが自分にできないことを気に病み、強い自責の念にさいなまれている人もいます。あまりに自責が強い場合は、根本的な解決を図る以前に、「片付けができなくてつらかったけど、なんとかしようとがんばってきたよね。片付けられないあなたが悪いわけじゃないんだよ」と自分自身に言葉をかけて自責をやわらげ、「ほかの人と同じようにできないなんて価値がない」「当たり前のことができない自分はだめだ」というプレッシャーから開放してあげることが大切です。

――片付けられない背景には、何があるのでしょう。

切り分けて考えるべきなのは、ADHDなどの症状によって片付けられない場合です。ADHDは注意欠如・多動症といって、年齢、あるいは発達に見合わない注意力や集中力の欠如、落ち着きのなさ、多動性、衝動性などが見られる発達障害の一種。

すぐほかのことに気を取られてしまう、段取りや優先順位がつけられないといった特性があるので、片付けや整理整頓が得意ではない方が多いですね。こうした場合は、専門医に相談しながら、自分の特性と折り合いをつけて上手に付き合っていく必要があります。

特性とは関係なく、なぜか片付けられない場合は、「片付ける」「捨てる」といった行為に何かを投影している可能性があります。

ここで言う「投影」とは、ありのままの事実ではなく、自分の解釈を通して物や人を見ること自分の中にある思いや認めたくない欲求を、他者をはじめとする「別の何か」に重ねて見ることです。

例えば、「片付けられない」とおっしゃる方に詳しくお話を伺うと、「そういえば、台所や洗面台などほかの場所は片付いている。でも、本やノートがどうしても捨てられない」といった、具体的な状況が見えてきます。

実際は、「部屋を片付けられない」のではなく、「本やノートが捨てられない」ことが本当に困っているのだといえるでしょう。それは、本やノートに何かしらの「投影」をしている可能性があります。

そこで、本やノートにどのような投影が乗っているのか――本やノートにどのような意味があるのか、どのような感情を映しているのか――を見ていきます。

例えば、ある人が、本やノートに「自分にたくさんの知識を授けてくれる物」という意味付けを無意識下でしていた場合、それを捨ててしまうと、まるで自分がまったく無知な人間になる気がしてしまう。だから、本やノートが捨てられないのです。


■「本やノートが捨てられない」のは、どういうことを投影している?

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「本やノートを捨てることで、どのような気持ちになるのか?」といった質問をすることで、自分の本当の気持ちに気付いたり、傷ついた記憶を思い出したりする方も多いんですよ。

――なるほど。本人は気付いていないかもしれないけれど、その方にとっては「ただの本やノート」ではなく、何かしらの意味があるわけですね。

そうなんです。一方で、投影以外にも「捨てられない」「片付けられない」状態を保つことで、「隠れたメリット」を享受していることも考えられます。

例えば、意識の上では「部屋が散らかっているのが嫌だ」と思いながらも、潜在意識では「散らかっている物も、見える場所にあると安心する」「好きなタイミングで自分の物を動かせるので、誰にも指図されずに自由である感覚」といった安心感・満足感を得られている場合も。つまり、自分でコントロールできている強さを感じられるのです。

これは、普通の会話では気付かない気持ちなので、心の内側に深く潜っていくカウンセリングで見つかることが多いですね。

「片付けられない」状況を把握することが最初のステップ

――投影や隠れたメリットに気付いたら、どのように解決していけばいいのでしょうか。

一概に「片付けられない」といっても、状況はさまざまです。

・元々物が多いのか
・散らかっている物の中に捨てられる物はあるか、特定の物を捨てられないのか
・買いすぎて物が多いのか
・本当は片付いているけれど、自分的には片付いていないと思っているのか

...といったように、「片付けられない」の中身によって、投影なのか、隠れたメリットなのかが違ってきます。そのため、まずは状況を明らかにしましょう。

例えば、第三者から見ればきれいに片付いているように見えるのに、「本が数冊、いつも床に置きっぱなしになっていること」をとても気にしている人の場合、その本に投影の鍵がありそうですよね。
または、リビングや子供部屋などは整理整頓できているのに、寝室だけが片付かないなら、その人にとって寝室という空間に隠れたメリットがあるのかもしれません。

物や場所を問わず、とにかく片付けることにハードルを感じる人は、行為そのものに何かを投影していると考えられます。

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――対象を明らかにしてから、そこに何を投影しているのか、どの状態にあることにメリットを感じているのかを探っていくのですね。

投影にしても隠れたメリットにしても、その人は無意識のうちに「こうすれば安心」「これが最善」と思って選択しています。

「その本を片付けようとすると、どんな感じがするの?」
「寝室をきれいにしようとすると、どんな気持ちになる?」
「物を捨てると、何か良くないことがある?」

...というような質問を自分の心に投げかけて、潜在意識に何があるのかを探ってみましょう。

「自分の所有物がなくなる感じがして不安」とか「自分の居場所がなくなるような気がして心配」といった感情がわいてきたら、それは過去に「片付けなさい」という言葉でずっとコントロールされていた感じや、それで悲しかったことなどによる抵抗の気持ちが出てきているのかもしれません。

また、大切な物を捨てられた経験があるとか、小さい頃から「片付けなさい」と言われるたびにだらしなさを指摘されている気がしていた...などのショックな体験がある場合は、トラウマが刺激されて「自分の物は自分の意志で持つことができる」「持ちたいんだ」という無意識の思いが生まれ、物を持ち続ける行動として現れることもありそうです。

このように、自分の心の深部にある痛みからくる行動であることに気付くことができないため、表層意識で捉えた部屋の状態を見て、「私は片付けられないダメ人間だ」などと思ってしまうことも少なくありません。

――原因がわかったら、どのようにケアをしていけばいいのでしょう。

原因がどんなに大きな負の感情だったとしても、自己否定したり、捻じ曲げたりせずに、そのままをストレートに受け止めてあげましょう。自分が悪いわけではありません。

そして、「あのとき、宝物を捨てられてつらかったね」「いつも叱られているような気がして悲しかったよね」

「自分なりにがんばっているのに、もっときれいにしてほしいと言われて傷ついたよね」と、小さい頃の自分の声に耳を傾けてみてください。

そうすることで、片付けや捨てることへの投影の思いが変わっていき、壁を感じることなく片付けなどの行動に移せるようになっていくと思います。


お話を伺ったのは...

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半澤久恵(はんざわ・ひさえ)さん

心理カウンセラー/セラピスト

大学卒業後、出版社へ入社。体調を崩したことをきっかけに、興味のあった心と体に関わる仕事をするため、アロマセラピーの道へ。サロンでセラピストとして働きながら、整体やアロマスクールの講師も務める。2012年にOAD心理セラピストの資格を取得。現在は自身のサロン「AROHAM」にて心と体にまつわる個人セッションを行うほか、心理学の講師としてセミナーなども開催している。
https://www.aroham-kee.com/

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
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