乳がん治療のプロフェッショナルが語る、正しく知る乳がんと検診

2019年12月、がん検診から生活習慣病対策、日常の健康サポートまで行う会員制総合メディカル倶楽部「グランドハイメディック倶楽部」と「東京ベイコート倶楽部ホテル&スパリゾート」の共催で「Healthy Lunch & Seminar」が開催されました。

本セミナーには、乳腺外科の第一線で「患者も自分も納得できる治療」を追求する乳がん治療のプロフェッショナル、明石定子先生が登壇。「正しく知る乳がんと検診について」というテーマで、乳がん罹患率増加の背景や、乳がんになりやすい方の特徴、乳がん検診の重要性などについての解説がありました。
ここでは、そのときの模様をお届けします。

乳がんは若い世代が罹患しやすいがん

乳がんの罹患率は、年々増加傾向にあります。明石先生からは、「年間約9万人が新たに乳がんと診断されており、日本人女性では最も罹患しやすいがんといえる」というお話とともに、具体的なデータが示されました。グラフの10万人あたりの罹患数を見ると、その推移がよくわかります。

<部位別 がん罹患率(全国推計値)年次推移 女性、全年齢>

罹患率年次推移グラフ.jpg

国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計」よりグラフ作成

併せて、大腸がん、胃がん、肺がんといったがんが年齢とともに増えるのに対し、乳がんは1つ目のピークが40代後半、2つ目が60代と、ほかのがんに比べて罹患する年齢が若いことも示されました。

「40代後半は、まだお子さんが小さかったり、仕事では責任ある立場だったりと、家庭や組織の中心で活躍している年代。家庭ではもちろん、社会的にも非常にインパクトが大きいですね。

乳がんの発症率と死亡率の関係を見ると、年齢を重ねるとほかの病気で亡くなる方が増加していくものの、若い年代では乳がんでの死亡率が高いことがわかっています。

日本人女性全体が注意すべきではありますが、中でも若い方ほど注意していただきたい疾患だということです」

乳がん発症リスクを高める生活習慣などの要因

国内での乳がん罹患率は、アメリカやイギリスに比べるとまだ低いほうであることがわかっています。明石先生は、同じ日本人であっても住むところによって発症率が異なることから、食生活を含めた生活習慣全般の影響が大きいと話されていました。


和食中心の食事が乳がん予防に◎

「日本で乳がん発症率が低かった時代は、和食中心の食事だったことが大きいでしょう。乳がんは、大豆食品に含まれるイソフラボンの摂取で発症リスクが低くなるといわれています。実際、味噌汁を1日3杯以上飲む人は、飲まない人に比べて0.6倍乳がんになりにくいという研究結果もあります。

日本人における生活習慣と乳がんの関係性を見たとき、確実なリスク要因として肥満が挙げられることを考えると、味噌汁などの大豆製品を含むバランスの良い和食が予防要因になるといえるでしょう」


喫煙は大きな乳がんリスク要因に

肥満のほか、閉経前のやせ・高身長、喫煙および受動喫煙もリスク要因になる可能性があるそう。喫煙によって発症率が増加することはほぼ確実であり、特に閉経前は発症率が2.6倍にもなることから、明石先生は「吸っている方は、できるだけ早く禁煙を」と呼び掛けました。

太らない、たばこを吸わない、適度な運動をする、といった一般的に体に良いとされていることは、乳がんの予防という観点からもおすすめです」

次に、乳がんの早期発見につながる、生活習慣以外のリスク要因についてお話がありました。


生理のある期間が長いこと自体がリスク要因

「まず、片方が乳がんになった方。転移ではなく、新しい乳がんがもう片方にできる可能性が高いことがわかっています。

次に、初潮が早い、閉経が遅い、出産経験がないなど生理の回数が多い人や、初産の年齢が35歳以上の方。乳がんは、卵巣で作られる女性ホルモン・エストロゲンの影響を受ける期間が長いほどリスクが高まりますので、生理の回数が多いことはそれだけで大きなリスク要因なんです」


遺伝性乳がんの見極めも重要

乳がんは、生活習慣などに起因するものだけでなく、遺伝的な要因で発症する場合もあります

明石先生は、乳がんや卵巣がん発生の確率が上がるBRCA1という遺伝子の異常が見つかり、予防のために両乳房と卵巣を摘出したアメリカの女優アンジェリーナ・ジョリーさんの例を交えつつ、遺伝性乳がんと気付くためのポイントを挙げてくださいました。

<遺伝性乳がんかな?>
■本人が乳がんの診断で
・がんの家族歴が2人以上...乳がん、転移性前立腺がん、膵臓がん
・がんの家族歴が1人でも...卵巣がん、50歳前発症の乳がん
■原発乳がん(※1)を2つ以上発症
■40歳未満で発症
■トリプルネガティブ乳がん(※2)
■男性乳がん
■卵巣がん(乳管がん、腹膜がん)
■転移性前立腺がん
JCCNガイドライン2018より

※1 原発乳がん...乳房の細胞ががん化して発生したもの
※2 トリプルネガティブ乳がん...女性ホルモンによってがん細胞が増殖する性質(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体)を持たず、さらにがん細胞の増殖にかかわるHER2(ハーツー)タンパクあるいはHER2遺伝子を持たない乳がん。一般的に、女性ホルモンの受容体を持つ乳がんはホルモン治療が有効、HER2タンパク・HER2遺伝子を持つがんは分子標的薬や抗がん剤による治療が行われるが、トリプルネガティブ乳がんの場合はそのいずれも効かないといわれている。

「遺伝性乳がんの確率を調べる検査は、近々保険適用になる可能性が高いので、費用負担という面では少しハードルが下がるでしょう。あてはまる方は対策をとることができる場合もあるので、主治医に相談していただきたいと思います」

乳がん検診のメリットと注意点

医療機関を受診するきっかけになるのは、圧倒的にしこりが多いです。ただし、自分でさわって見つかるしこりは2cmから5cm程度が多いのに対し、検診では約15%の人が転移をすることがほとんどないとされる非浸潤がん、いわゆる0期の段階で発見されます。

「再発率を考えても、乳がんはできるだけ小さい段階で見つけるに越したことはありません。そのため、乳がん検診はぜひ受けていただきたいですね。

マンモグラフィ検査は痛みのために敬遠する方も多いのですが、乳房を挟んで薄くすると、被ばく量を低減し、細部までクリアに写すことができます。胸の張る生理前は避けるなど、時期を工夫して受けてみてください

マンモグラフィは、一般的に40歳を過ぎてから有効とされていますが、乳腺組織の密度が高い高濃度乳房の人などはマンモグラフィでは乳がんを発見しにくいため、超音波検査、3Dマンモグラフィ、乳房専用PETといった検査と組み合わせて行うことが重要です。

ごくまれに進行が早い悪質な乳がんもあることから、「自己検診も忘れずに」と明石先生。閉経前なら生理開始後10日くらい、閉経後なら月1回程度、日を決めて自己検診をするといいとのことでした。


自己検診の方法

<見た目のチェック>
こちらは鏡の前で行うのが◎です。
両腕を下げたまま乳房・乳頭を観察。次に両腕を上げて、正面・側面・斜めから乳房を観察しましょう。

・乳房の変形や左右の差はない?
・えくぼのようなへこみやひきつれはない?
・乳輪の変化や乳首のへこみはない?
・皮膚がただれてない?

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<さわってチェック>
入浴時に手に石鹸をつけて、滑りやすい状態にします。そして、乳房の表面に円を描くようにしてさわってみたり、指先をそろえて脇の下に入れてリンパ節が腫れたりしていないかチェックしましょう。
さらに、夜寝る前は仰向けに横たわって、乳房の内側と外側を指の腹で軽く圧迫しながら確認してください。

・乳頭をつまんだとき、出血や分泌物はない?
・さわったとき、しこりや硬いところはない?
・脇の下のリンパ節にしこりはない?

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最後に、乳がんと診断された場合の治療法についてもお話がありました。乳がん治療は、全摘手術しか選択肢がなかったころに比べて飛躍的な進化を遂げており、乳房温存手術、乳房再建術など、胸のふくらみを残すことも十分可能になっています。

また、リンパ節転移の有無を手術中に調べることでリンパ節を切除せずに済むケースも増え、術後の腕のむくみやしびれ、痛みをかなり軽減できるようになりました。乳房の形を取り戻すことができるだけでなく、術後の生活の質もかなり向上しています

乳がんは、ステージIで見つかれば5年生存率が9割と、早期発見できれば治癒しやすいがんです。運動習慣、閉経後の肥満予防、禁煙、受動喫煙予防、アルコール制限、大豆摂取といった生活習慣の改善と、40歳以降の定期的な検診を忘れずに、早期発見に努めましょう。

乳がんと診断された場合も、多様な治療薬の登場で生存率は向上しています。出所の不確かな情報に振り回されることなく、正しい知識を基に、最適な治療を選択していただきたいと思います」


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明石定子医師(専門/乳腺外科)
日本外科学会 外科指導医・専門医、日本乳癌学会 乳腺専門医・指導医

1990年に東京大学医学部を卒業後、東京大学医学部附属病院第三外科に入局。1992年より国立がん研究センター中央病院にレジデントとして入局し、乳腺外科などを担当する。2010年には同病院の乳腺・腫瘍内科 病棟医長を務める。2011年より昭和大学病院乳腺外科で治療や後進の指導にあたっている。2019年には昭和大学医学部 乳腺外科教授に就任。非常勤としてハイメディック・ミッドタウンの乳がん検診とセカンドオピニオンを担当。


※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
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