コントロールの難しい更年期の「怒り」。対人トラブルを回避するには

女性ホルモン(エストロゲン)の減少や、家庭や社会における役割の変化に伴う喪失感によって、心と体が揺らぎ始める更年期。些細なことにも過剰に反応してイライラしたり、落ち込んだりしてしまうなど、これまでとは違う心の動きに苦しむことも多くなるでしょう。
中でも扱いに困るのが「怒り」の感情。怒りは激しい感情であるため自覚しやすく、他人に迷惑をかけることもあるため、何とかしたい...と考える人は少なくありません。

メンタルケア・コンサルタントの大美賀直子さんは、「怒りの陰には、悲しみや失望といった傷付きの経験がある」として、「傷を癒やして、無駄な怒りが生まれるのを防ごう」といいます。更年期の怒りとの向き合い方について、大美賀さんに教えていただきました。

怒りを生む感情を癒やすことが大切

――更年期になると、穏やかだった人が急に怒りっぽくなった、すぐにイライラするから付き合いにくくなったという話をよく聞きます。カッとなる自分が抑えられず、苦しんでいる人もいるようですが...。

更年期は、ホルモンバランスの乱れや子供の自立、仕事上の立場の変化などによって、心が安定しにくくなる時期。母として、働く女性として、それぞれの立場で経験や知見を積み上げてきた自負があるだけに、突然の変化に戸惑い、感情が揺らぎやすくなります。

揺らぎの現れ方のうち、虚無感や無力感などはいずれも静かな感情で、ともすれば自分でもその存在に気付かないことがあります。一方、怒りとなって現れる感情の揺らぎは激しく、周りを巻き込むことが多いので、自分も他人も気付きやすいといえるでしょう。

――人間関係に亀裂が入る可能性もあるからこそ、なんとか怒りをコントロールできるようにしたいと思っている人は多いですが、実際それは可能なのでしょうか。

怒りは自然に発生する感情なので、自分の意思でコントロールすることは難しいです。ただ、ちょっとした工夫で、無駄に怒りが発生しないようにすることはできますよ。

――無駄に怒りが発生しないように...というのは、どうすればいいのでしょう。

まずは、怒りが「第二感情(2番目に出てくる感情)」と呼ばれるものであること、つまり、怒りが生まれる前に生じている「第一感情」が必ずあることを知ってください。

例えば、仕事で生じたミスをきっかけにイライラし、周りの人にやたらと八つ当たりしている自分に気付いたとしましょう。このとき、最近どうして自分は怒りっぽくなっているのかを考えてみてください。

すると、例えば、昔のように遅くまで仕事をするバイタリティがないことへの落胆や焦り、「自分はこの先必要なくなるのではないか」という未来に対する不安や心配――こうした感情が心の底に増えていると気付くことがありませんか?

これらが、怒りの前に湧いている第一感情です。

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――怒りの前には、切ない感情があるのですね...。

そうなんです。怒りよりも先に、落胆や焦り、不安や心配などの第一感情が心の中にあふれていて、傷付いていることが多いんですね。
ほとんどの場合、第一感情は強い怒りの陰に隠れて見えませんから、自分で気付いて、体の傷と同じように手当てする必要があります。この場合の手当てとは、第一感情を見つけていたわることです。

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ありのままの自分を認め、他人に頼る

――第一感情をいたわるには、具体的にどうすればいいですか?

第一感情をいたわる方法は2つあります。


自分で自分を認め、増えていく能力に目を向ける

ひとつは、自分で自分を認めてあげる方法。傷ついた第一感情は、「あの人はあんなにがんばっているのに」「昔はこんなこと簡単にできたのに」と、周りの人や過去の自分と比べることによって生まれます

更年期に入って、できないことが増えるのは当然のこと。できる人がいるからといって、できない自分が弱いわけでも、ダメなわけでもありません。「がんばりすぎなくていいよ」「ゆっくりでいいよ」と、ありのままの自分のペースを認めてあげましょう

年齢と共にできなくなることを数えるのではなく、逆に「増えていく能力」に目を向けるのもいいですね。更年期には、新しいことを素早く覚えて新しい場面に適応する能力(流動性知能)が衰える一方で、これまでに得た知識や判断力、技能を活用して、さまざまな場面に応用していく能力(結晶性知能)が向上します。

新しいことを覚えるスピードは、若い人に負けるかもしれない。でも、これまでに得た知恵や経験を使いこなせば、年が増すと共に深みのある仕事ができるようになる――こう思うと、次のライフステージに向かうのが楽しみになってきませんか?
できないことに焦らず、得意な能力を活かしていきましょう。


身近な人にモヤモヤを話して受け止めてもらう

もうひとつは、自分ではない別の人に手当てしてもらう方法です。更年期には特におすすめしたいですね。
更年期は、女性ホルモン(エストロゲン)の急激な変化で心身が不安定になる点では、「思春期」によく似ています。

ご自身やお子さんの思春期の頃の心境を思い出してみてください。日頃感じる不平や不満を友達と共有して、モヤモヤとするこの時期を乗り越えていたのではないでしょうか。

これは、第一感情を他人に癒やしてもらう際の
・受容(相手の感情を受け止める)
・傾聴(じっくり話を聞いて相手の思いを理解する)
・共感(相手の立場に立って考え、感情を共有する)
・承認(相手の存在をありのまま認める)
・寄り添い(相手の存在を大切に扱い、そばにいる)
の実践ともいえる行動です。

思春期の頃は、身近な友達とたわいない会話をしながら、こういった癒しのコミュニケーションを繰り返し行っていた人も多いでしょう。これを「ピア・カウンセリング」といいます。しかし、大人になるとどうしても遠慮が先立って、人に頼りにくくなります。

ただ、実は身近にいる友人やパートナーも、互いの心の傷を癒し合えるような関係性を求めているのかもしれません。これから先、周囲の人たちとの関係を再構築する意味でも、信頼できる友人やパートナーとのあいだでピア・カウンセリングを行ってみるといいでしょう。

「自分で自分を認める」と「人に手当てをしてもらう」、これら2つの方法を続けていくと、第一感情が癒されて第二感情に移行しにくくなるため、怒りが発生しにくくなっていきますよ。

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短期的には、「タイムアウト」や「I(アイ)メッセージ」が有効

――長期的に第一感情を癒やしていく一方で、ついカッとしてしまったときにできる対処法はありますか?

怒りがわくと瞬時にピークに達してしまうので、感情をあおらないことが大切です。そのためには、その場から離れることと、深呼吸することがポイントです。

・その場から離れる
トイレに行く、外に出るなど、自分にタイムアウト(中断、一時休止)をかけて、その場から離れてみましょう。

・深呼吸する
呼吸に意識を向けると、自然と怒りから気持ちが離れていくため、それ以上怒りを蒸し返さずに済みます。

――カッとなったら数秒我慢して冷静さを取り戻す方法も聞きますが、意識的にその場から離れたり、気をそらせたりするのも有効なんですね。では最後に、怒りをきっかけに起こりやすい対人トラブルを防ぐ方法を教えてください。

怒っているときに発する言葉は、ほとんどが相手を批判したり相手に要求したりする「YOU(ユー)メッセージ」になっています。YOUメッセージを送ると、相手はとっさに防衛体制をとり、反発や言い訳といった方法で自分の身を守ろうとします。その結果、「いいかげんにしてよ!」「そっちこそ!」といった言い合いになってしまうものです。

これを避けるために、自分を主語にした「I(アイ)メッセージ」を使って、第一感情を伝えるようにしましょう。

・(私は)その言葉にとても傷付いてしまったの
・(私は)連絡をもらえなくて不安だったんだよ

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相手を批判したり要求したりするのではなく、「自分がどう感じたか」を伝えることがポイントです。相手を責める言葉ではないので、言い合いに発展しにくくなります。
怒りの感情を衝動的にぶつけて人間関係を壊してしまうのは、とてももったいないこと。更年期後にも周りと助け合う良い関係を長く続けていくためにも、ぜひIメッセージを実践してみてください。


お話を伺ったのは...

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大美賀直子(おおみか・なおこ)さん

メンタルケア・コンサルタント

大学卒業後、出版社やIT関連企業などで編集者として勤務。その後、心理学やカウンセリングを学び、公認心理士、精神保健福祉士、産業カウンセラーといった資格を取得。メンタルケア・コンサルタントとして、ストレスや人間関係にまつわるコラム執筆やメディア出演、講演、書籍の執筆・監修などを行う。All About「ストレス」ガイド。最新著書は「大人になっても思春期な女子たち」(青春出版社)
https://www.mentalcare555.com/

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
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