【医師監修】 認知症を予防する時代へ|認知症リスクを高める14の原因

東京ミッドタウンクリニック
田口 淳一(専門分野:循環器内科)
認知症は、これまで「年齢とともに避けられない病気」と考えられてきました。しかし現在ではその考え方は大きく変わりつつあります。
国際的な医学誌『The
Lancet(ランセット)』が示した14のリスク因子では、教育歴、難聴、生活習慣、運動不足、孤立など、日常生活と密接に関わる要素が多く挙げられ、これらを改善することで認知症の約40%を予防または発症を遅らせる可能性があると報告しています。
認知症リスクは見直せる。最新研究が示す「14の原因」とは
近年の医療の現場では、認知症は「ある日突然発症する病気」ではなく、中年期以前からの生活や健康状態が少しずつ積み重なった結果として現れる病態であると捉えられています。
ここからは、科学的根拠に基づいた14のリスク因子について、具体的に解説していきます。
1. 教育の不足|学び続けることが認知症予防につながる
教育は脳の神経ネットワークを発達させて、「認知予備能」を高める効果があります。認知予備能とは、脳にダメージがあっても正常な機能を維持できる脳の余力のことです。
幼少期から青年期の教育が特に重要で、複雑な思考や問題解決能力を身につけることで、脳の神経回路が発達しますが、成人になってからでも、読書や学習活動を続けることで脳を刺激し続けられます。
また、年齢を重ねても、見聞きするだけでなく手を使う学びは良いと思います。手芸や園芸、陶芸など、手や指を動かす趣味を持つことも脳機能の活性化のためにおすすめです。
2. 難聴|聞こえのケアで認知症リスクを下げる
聴力の低下は、脳への音情報が減ることで脳活動が低下し、認知機能に悪影響を与えます。聞こえにくくなると、会話についていくために脳により多くのエネルギーを使うようになり、記憶や思考に使える脳の力が減ってしまいます。
また、難聴により人とのコミュニケーションが困難になり、社会的な孤立を招きやすくなることも認知症リスクを高める要因となります。中年期(45〜65歳)の聴覚障害がある人は、正常な聴力の人と比べて認知症になるリスクが約2倍高いことが分かっています。
3. 高LDLコレステロール|コレステロール管理で脳を守る
中年期における高LDLコレステロール(悪玉コレステロール)は、動脈硬化を促進し、脳血流の低下やアミロイドβの蓄積を引き起こすことで、認知症リスクを高めると報告されています。
食生活の改善や運動習慣、必要に応じたスタチン(LDLを下げる薬の総称)の使用によりLDL値を適正に保つことで、将来の認知症予防につながります。
4. 外傷性脳損傷|転倒や事故による頭部外傷を防ぎ脳の健康を保つ
脳に直接的なダメージを受けると、認知症の原因となる異常なタンパク質の蓄積が促進されます。スポーツや交通事故、転倒などによる頭部外傷は、軽度であっても脳に影響を与える可能性があります。
特に問題となるのは、繰り返し頭部に衝撃を受けることです。軽度な衝撃でも繰り返し受けることでリスクはさらに高まり、5回以上の外傷では認知症リスクが約3倍まで上昇することが報告されています。
年齢を重ねると何もないところで転倒することも多くなりますが、まずは日常生活の転倒事故から防いでいきましょう。
5. 高血圧|血圧コントロールが認知症予防の鍵
血圧が高い状態が続くと脳の血管に負担がかかり、動脈硬化などによって血流が悪化します。脳は酸素と栄養を豊富に必要とする臓器のため、血流の悪化は神経細胞の機能低下を招きます。
また、高血圧は小さな脳梗塞を引き起こしやすく、これが積み重なることで認知機能が徐々に低下していきます。中年期の高血圧は特に影響が大きく、50歳で血圧が高い人は将来の認知症リスクが高くなることが研究で明らかになっています。
6.アルコールの過剰摂取|適切な飲酒が認知症予防につながる
大量の飲酒は、脳の神経細胞を直接的に傷害し、特に記憶を司る海馬という部位の萎縮を引き起こします。アルコールは脳に対して毒性があり、長期間の過剰摂取により脳の容積が減少することが知られています。
アルコール依存症の人の認知症リスクは、男女ともに約3倍高くなることが知られています。特に65歳未満で発症する若年性認知症の半数以上にアルコール問題が関わっていることも報告されています。
7.肥満|体重管理で認知症リスクを抑える
肥満は糖尿病や高血圧などの生活習慣病を引き起こし、これらが脳血管に悪影響を与えます。また、肥満そのものが体内で慢性的な炎症状態を作り出し、この炎症が脳の神経細胞にダメージを与える可能性があります。
中年期にBMI30以上の肥満状態にある人は、適正体重の人と比べて将来の認知症リスクが約1.3倍高くなることが大規模な研究で確認されています。
8.喫煙|禁煙が脳と認知機能を守る
タバコに含まれる有害物質は血管を収縮させ、脳への血流を悪化させます。また、喫煙により体内で活性酸素が増加し、これが脳の神経細胞を攻撃してダメージを与えます。長期間の喫煙は脳の血管病変を引き起こしやすく、血管性認知症のリスクを高めるのです。
喫煙者の認知症リスクは非喫煙者と比べて明らかに高く、受動喫煙でも記憶力の低下が見られることが報告されています。
9.うつ|心のケアが認知症予防につながる
うつ状態が続くと、脳の重要な部位である海馬や前頭葉に萎縮が起こることが知られています。これらの部位は記憶や判断力に重要な役割を果たしているため、萎縮により認知機能が低下します。
また、うつ病は認知症の前段階の症状として現れることもあり、認知症の初期段階で気分の落ち込みが生じる場合があります。大規模研究では、うつ病の経験がある人は認知症リスクが約2倍高いことが明らかになっています。
10.社会的孤立|孤独を防ぎ、人とのつながりを保って脳を刺激
人との交流が少ないと、脳への刺激が減少し、言語機能や記憶力を使う機会が減ってしまいます。脳は「使わないと衰える」特性があるため、社会的な交流の不足は認知機能の低下につながります。
独身の人や配偶者を亡くした人は、既婚者と比べて認知症リスクが高いことが世界各国の研究で一貫して報告されています。質の高い人間関係を持つ人ほど、認知症になりにくいことも分かっています。
11.身体活動不足|日常的な運動で認知症を予防する
運動不足は脳への血流を低下させ、神経細胞の新生(新しい細胞が生まれること)を妨げます。運動は脳の健康維持に重要な物質の分泌を促進するため、運動不足はこれらの恩恵を受けられなくなることを意味します。
長期間の運動不足がある人は、活発に身体を動かす人と比べて認知症リスクが約1.4倍高いことが報告されています。特に中年期からの継続的な運動不足は、将来の認知症リスクに大きく影響することが分かっています。
12.糖尿病|血糖コントロールで脳の健康を守る
高血糖状態が続くと、脳の血管に障害が生じ、血流が悪化します。また、インスリンの働きが悪くなることで、脳内でアルツハイマー病の原因となる異常なタンパク質が蓄積しやすくなるとされています。
糖尿病患者の認知症リスクは、健康な人と比べて約1.6倍高く、糖尿病の罹病期間が長いほど、また血糖コントロールが悪いほどリスクが上昇することが知られています。
13.大気汚染|生活環境を意識して認知症リスクを減らす
PM2.5などの微細な汚染物質は、呼吸を通じて体内に入り、血流に乗って脳に到達します。これらの物質は脳で炎症や酸化ストレスを引き起こし、神経細胞にダメージを与えます。
大気汚染の濃度が高い地域に住む人は、きれいな空気の地域に住む人と比べて認知症になりやすいことが複数の研究で報告されています。特に交通量の多い道路沿いに住む人では、認知症リスクの上昇が顕著に見られます。
14.視力障害|視力低下をケアして認知症予防につなげる
視力の低下や未治療の目の病気は、近年、認知症の新たな危険因子として注目されています。視力が落ちると脳への刺激が減り、社会的な交流も減少しやすくなるため、認知機能に悪影響を及ぼすと考えられています。また、白内障や糖尿病網膜症などの疾患を適切に治療すると、認知症リスクが下がる可能性が報告されています。
定期的な眼科検診と早期治療は、視力を守るだけでなく、認知症予防にもつながる重要な対策です。
14のリスク因子から考える、認知症予防で本当に大切な生活習慣
14のリスク因子を通して分かることは、認知症予防において最も重要なのが、血管・代謝・感覚機能・社会性といった身体と脳を取り巻く環境を、長期的に整えていくことだという点です。
臨床の現場では、複数のリスク因子が重なっている方ほど、認知機能の低下が早く進む傾向が見られます。そのため、ひとつの原因だけに注目するのではなく、生活全体を見直すことが極めて重要です。
認知症は「なってから対処する病気」ではなく、「なる前に備える病気」です。日々の生活を少し意識することが、将来の自分自身、そして家族の安心につながります。
この記事を監修した人

田口 淳一 (たぐち じゅんいち) 医師
医学博士
専門分野:循環器内科
東京大学医学部卒業。1993年ワシントン大学(シアトル)へ留学。東京大学医学部附属病院助手、元宮内庁侍従職侍医などを経て、2007年東京ミッドタウンクリニック院長、2024年より東京ミッドタウンクリニック総院長に就任。同年9月に「脳の健康を守る」をテーマに、認知症の発症予防から診断・治療法、介護ケアまで最新の研究に取り組む一般社団法人脳の健康を守る総合研究所 代表理事に就任。2026年5月 医療法人社団ミッドタウンクリニックの理事長に就任。
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