【専門家監修】女性の不調が見過ごされる?健康問題と対策を性差医療で解説

一般社団法人ウィメンズヘルス・イノベーション協会

木村 恵(専門分野:女性ヘルスケア×イノベーション)

            

             

「朝起きたときに疲れが残っている」「わけもなくイライラして落ち込む」「急に動悸がする」
毎日がんばっている中で、そんな不調を感じることはありませんか?
勇気を出して病院に行ったのに、「特に異常はありません」「ストレスや年齢のせいでしょう」と言われ、一人でモヤモヤとした不安を抱え込んでいる方も多いかもしれません。

男性と女性の身体が違うのは誰もが知っている当たり前の事実ですが、これまでの医療研究や薬の試験は、主に男性の身体を基準に進められてきた歴史があることをご存知でしょうか。その結果、女性特有の不調のサインが見過ごされてしまったり、薬の副作用が出やすくなったりするという問題が起きています。

この記事では、男女の身体の違いを正しく考慮する性差医療の必要性と、私たちの健康や働き方をどう変えていくのかについて、フェムテック専門家として起業家支援や大企業の新規事業相談にも応じる、一般社団法人ウィメンズヘルス・イノベーション協会 理事 木村恵さんが丁寧に解説していきます。

そもそも「性差医療」って何?

「性差医療」とは、子宮や卵巣など女性特有の臓器の病気を診る婦人科関係のことだと思うかもしれませんが、実はそれだけではありません。心臓病やうつ病、感染症といった男女共通の病気であっても、症状の現れ方や病気の進行スピード、薬の効き方」は男女で大きく異なることがわかってきています。この男女の違い(性差)にしっかりと着目し、一人ひとりの性別に合った最適な診断や治療を行おうとするのが性差医療です。

また、性差医療で大切なのは、生まれ持ったホルモンや体格などの身体的な違い(セックス)だけではありません。女性の方が家事や育児の負担が大きく、男性の方が仕事のプレッシャーを一人で抱え込みやすいなど、生活環境や社会的な役割による違い(ジェンダー)も、病気の発症や進行に深く関わります。この両方の視点から、私たちの健康を総合的にサポートしてくれるのが性差医療の考え方なのです。

見過ごされてきた、性差医療がないことによる3つの問題点

これまで男性を基準に進められてきた医療の中で、私たち女性の身体にはどのような不利益が起きていたのでしょうか。ここでは、性差が考慮されないことで起こる3つの問題点を、具体的なケースとともにわかりやすく解説します。

① 病気のサインが見逃され診断が遅れる

例えば、ドラマなどで心臓発作が起きるシーンでは、突然胸を激しくかきむしって倒れる姿をよく見かけますよね。実はあれは比較的男性に多い症状なのです。女性の場合、心臓発作が起きても激しい胸の痛みを感じないこともあり、代わりに以下のような、一見すると心臓とは無関係に思える症状が出ることが多くあります。

  • 息切れ
  • いくら休んでもとれない、ひどい疲労感がある
  • 背中や肩甲骨のあたりが重く痛む

また、40代〜50代になり、下記のことで悩んでいませんか?

  • 最近すごく疲れやすい
  • わけもなく気分が落ち込む
  • 汗をかきやすい

実は、本人だけでなく、時には医師でさえも年齢的な更年期障害だと思い込んでしまうことがあります。しかし、その裏には、甲状腺の病気やうつ病といった、早期の治療が必要な病気が隠れているリスクがあります。治療を受けてもよくならない不調がある場合は、別の病気の可能性も疑い、もう一度医師に相談することが大切です。

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② 治療法が身体に合わず、副作用に苦しむ

「市販の風邪薬を飲むと、いつも眠くなりすぎて困る」
「お薬を飲むと気分が悪くなりやすい」
このような経験はありませんか?もしかすると、これも性差が関係しているかもしれません。
1990年代前半までの薬の臨床試験(新薬の安全性を確かめる治験)は男性中心になっており、女性が除外されたデータが今も多く使われています。
女性に関する研究は、妊娠、不妊、乳がんなどの生殖関連疾患に偏っていたため、女性特有の以下のような身体的な違いが考慮されてきませんでした。

  • 女性は男性に比べて小柄な方が多く、体内の水分量が少なくて脂肪が多い傾向がある
  • ホルモンの働きが男性とは異なる

そのため、男性と同じ量の薬を飲むと、女性の方が体内に薬の成分が残りやすく、結果として副作用のリスクが男性よりも高くなってしまいます。

③ 女性のキャリアに影響──「届かない」会社の支援

PMS(月経前症候群)や重い生理痛、予測できない更年期症状などにより、キャリアアップしたいのに退職を選んだ女性は決して少なくありません。女性特有の健康課題による労働力の低下や離職は、社会全体で見ると年間約3.4兆円規模の経済損失(※2024年 経済産業省試算)にも上ると言われており、今や日本社会全体で解決すべき大きな課題となっています。
また、企業の女性支援制度が存在していても、職場のリアルな現場では以下のような見えない壁が存在しています。

  • 利用しづらい雰囲気:
    上司や同僚の理解が乏しく、「生理くらいで休むなんて」と思われるのが怖くて申請できない。
  • 周知不足:
    そもそも会社にどのようなサポート制度や相談窓口があるのか、従業員に十分に知らされていない。

その結果、制度と現実の間に大きなギャップが生まれ、結局は女性が一人で不調を抱え込んでしまっているのが現状です。

私たちの健康の未来はどう変わる?性差医療の今

性差やジェンダーの視点を研究や技術開発に組み込むことで、新たな技術革新・経営革新を生み出そうという流れが世界で加速しています。これを「ジェンダード・イノベーション」と呼びます。
女性の身体のデータや生活環境の違いがしっかりと研究・蓄積されることで、より安全で副作用の少ない薬が開発されたり、性別に合った新しい治療法が生まれたりするなど、医療の質が向上すると期待されています。

受診先に迷う女性のための新たな窓口「女性外来」

不調を感じたとき、何科を受診すればいいのかわからず、病院のたらい回しになって疲れてしまった経験はありませんか?
そんな女性たちの悩みに応えるため、複数の症状をまとめて相談できる窓口として「女性外来」を設ける病院が少しずつ増えてきました。最近では、性差医療の考え方を取り入れた女性外来も登場しています。

すべての女性外来が性差医療の専門家によって運営されているわけではありませんが、女性の身体の仕組みに詳しい医師が話を聴きながら全身を診てくれるケースが増えています。原因不明な不調に対して解決の糸口が見つかったり、診断や治療方針が見直されることがあるので、「どこに相談すればいいかわからない」と一人で迷ったときは、こうした専門の窓口を頼ってみるのも一つの手です。

職場から変える!「健康経営」として注目される企業の支援策

Q 健康経営とは?
健康経営とは、会社が従業員の健康を大切にし、健康づくりに取り組むことを言います。従業員が元気に働けるようになることで、会社全体が活性化し、業績アップにつながると考えられています。国としても「健康寿命を延ばす取り組み」の一つとして応援しています。

最近では、女性の健康課題や性差医療の重要性について、女性社員だけでなく、管理職や男性社員を含めた全社員向けの研修を実施する企業が増えてきました。「知らなかった」ことによる無意識の偏見をなくし、正しい知識を共有することで、下記のような制度を利用しやすい、風通しの良い職場環境が作られつつあります。

  • 産業医や保健師の窓口の設置
  • 外部の専門機関(EAP:従業員支援プログラム)を導入

また、スマホやパソコンから匿名で医師やカウンセラーに直接相談できる仕組みが整うことで、一人で抱え込まずにプロを頼れる安心感が広がっています。さらに一歩進んで、福利厚生として「フェムテック」を導入する先進的な企業も登場しています。例えば、次のような支援があります。

  • オンライン診療によるピルの処方費用の補助
  • 更年期症状に特化したケアプログラムの提供

企業のこうした取り組みは、大切な従業員が心身ともに健康で、長く本来のパフォーマンスを発揮し続けられることを目的とした重要な投資として位置づけられています。さらに、体調の変化を記録するアプリや、更年期症状を可視化するサービスといったフェムテックも、性差医療の知見と連携しながら発展しつつあります。
これらの支援が健康課題に悩む女性に届いた場合の経済効果は1.1兆円にもなるとの経済産業省※ の試算もあり、企業の積極導入が期待されます。

※ 参考:経済産業省.『新しい健康社会の実現』.2024年,P29
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/020_04_00.pdf

「フェムテック」が切り拓く、女性の健康とセルフケアの未来

企業のサポートが広がる一方で、私たちが個人で日常的に活用できるフェムテック(女性の健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービス)も、心強い味方になってくれます。
自分の身体を守るためのセルフケアとして、今日から始められる具体例を2つご紹介します。

日々の体調を記録するアプリを活用する

まずは、下記の内容をスマホアプリに記録する習慣をつけてみましょう。

  • 月経周期や基礎体温
  • その日の気分
  • 痛みの度合い

「毎月この時期に落ち込みやすい」「天気が悪いと頭痛がひどい」といった、自分だけの不調のパターンが見えてきます。また、アプリで記録したデータはグラフやカレンダーに反映され、スマホ画面を直接医師に見せながら伝えられるため、病院を受診する際にも役立ちます。

ウェアラブルデバイスで身体のサインを見える化

スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスを活用すれば、次のような生体データを自動で収集・分析してくれます。

  • 睡眠の深さ
  • 心拍数
  • ストレスレベル

「睡眠の質が落ちているから、今日は早めに寝よう」など、ちょっとした身体の変化に早く気づけます。パーソナライズされた健康管理が可能になるのが、テクノロジーの素晴らしいところです。

自分の身体を知り、賢く医療や会社のサポートと付き合うために

これまでの医療や職場環境では、男女の性差への配慮がまだ十分とは言えず、それが女性の健康やキャリアに見えない壁として立ちはだかってきました。しかし、最近では性差医療の推進や企業の意識の高まり、フェムテックの登場などにより、社会は女性の心身に寄り添う方向へと変わり始めています。

今日からできる一番のセルフケアは、自分の身体に興味を持ち、日々の小さな変化を記録して知ることです。長引く不調がある場合、我慢せずに女性外来などの医療機関に相談してみましょう。

SUPERVISERこの記事を監修した人

PROFILE

木村 恵 (きむら めぐみ) さん

一般社団法人ウィメンズヘルス・イノベーション協会 理事
専門分野:女性ヘルスケア×イノベーション

生命保険会社での健康増進型保険の企画・開発をはじめ、保険業界で20年以上にわたりシステム開発のビジネス設計等に携わる。 現在は通信キャリア会社にて、スタートアップエコシステムの構築を牽引する傍ら、2021年からフェムテック分野の起業家支援や大企業の新規事業支援に従事。 フェムテックの社会的・制度的背景からビジネスモデルまでを俯瞰できる専門家として、経済メディア「NewsPicksトピックス」にて、130本以上記事を執筆中。経営学修士(MBA)。

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※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
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