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がん闘病中に起業して気づいた「おしゃれは心のビタミン」

近年は「がん」の治療法が多様化していますが、治療で使用する抗がん剤の影響で、頭髪が抜けてしまうことがあります。がん治療が始まると、医師や看護師から脱毛症状を隠すための帽子やウィッグを勧められます。

命が最優先なのは誰しもが思うことですが、実際に髪の毛が抜けていく頭を見るのは辛く、家族や友人にその姿を見られることに抵抗を感じる方も多くいらっしゃいます。

今回は、抗がん剤による脱毛で悩む方に向けたウィッグ付き医療用帽子ブランド「BAREN(バレン)」を展開する、株式会社MAYK代表の原まゆみさんにインタビューをいたしました。

闘病中の「病人らしさ」への抵抗感から「おしゃれなウィッグ」づくりに挑戦した原さんに、同じ悩みを持つ女性たちが、毎日を楽しく過ごすために取り組んだ道のりや考え方に着目した内容をお話しいただいています。

近年は「がん」の治療法が多様化していますが、治療で使用する抗がん剤の影響で、頭髪が抜けてしまうことがあります。がん治療が始まると、医師や看護師から脱毛症状を隠すための帽子やウィッグを勧められます。

命が最優先なのは誰しもが思うことですが、実際に髪の毛が抜けていく頭を見るのは辛く、家族や友人にその姿を見られることに抵抗を感じる方も多くいらっしゃいます。

今回は、抗がん剤による脱毛で悩む方に向けたウィッグ付き医療用帽子ブランド「BAREN(バレン)」を展開する、株式会社MAYK代表の原まゆみさんにインタビューをいたしました。

闘病中の「病人らしさ」への抵抗感から「おしゃれなウィッグ」づくりに挑戦した原さんに、同じ悩みを持つ女性たちが、毎日を楽しく過ごすために取り組んだ道のりや考え方に着目した内容をお話しいただいています。

闘病時のケア体験から始まった、自分らしさを取り戻すゼロからの挑戦

BARENの製品は、原さんご自身の闘病中からスタートしたとのことですが、事業を始められたきっかけを、詳しくお聞かせいただけますか?

原まゆみさん(以下、原): 2021年に子宮頸がんのステージ3と診断されたことがすべての始まりでした。抗がん剤治療の影響で髪の毛が抜けてしまうので、医師や看護師から「ケア帽子とウィッグを用意してください」と自然な流れで告げられました。

そこで、フルウィッグを探すためにインターネットで検索したり、直接サロンに足を運んだりしました。しかし、もともと偏頭痛持ちだったこともあり、ウィッグの締め付けがひどく、痛みや暑さ、汗のため、試着の段階で1分も着用していられませんでした。

それでも、楽に装着できるケア帽子やウィッグは一通り購入しましたが、やはり納得できませんでした。どうしても「病人」に見えてしまうのです。そこで、様々な帽子やウィッグの写真を見比べているうちに、顔周りにほんの少し毛があるだけで印象が大きく変わることに気づきました。もみあげや前髪が少し見えるだけで、病人らしさが軽減されるのではないかと考えたのです。

しかし、当時商品としてあったのは、単に髪を隠すためだけの無機質なデザインのものばかりで、自分が求めるようなデザインのものは見つかりませんでした。業界全体が若い世代のニーズに応えきれておらず、50代〜70代向けの商品や広告からアップデートが進んでいないと確信しました。それなら自分がやるしかないと腹を括り、「ないなら作ろう」と、事業化を決意しました。

闘病生活を明るく楽しくさせる、「おしゃれ」にこだわったデザイン開発

他にはない個性的なデザインばかりですが、おしゃれへのこだわりはどのようにして生まれたのでしょうか?

原: 病気になる前は、スカーフを巻くようなおしゃれなヘアメイクはあまりしていませんでしたが、せっかくウィッグやケア帽子を着用するなら、思い切ったおしゃれを堪能してみたいと思いました。そこで、華やかなスカーフを巻いたデザインにして、おしゃれなスタイリングになるようこだわりました。ただし、ウィッグにスカーフを巻くのは難しいため、美しく着用できるスカーフハットというアイデアにたどり着きました。

制作は順調に進んだのでしょうか?

原: いえ、実際に形にするのは簡単なことではありませんでした。アパレルの経験もなく、製造してくれる業者さんの当てもありませんでした。ゼロからのスタートだったため、まず対応してくれる業者さんを探すことも一苦労でした。
帽子で30社、ウィッグで10社ほどにメールや電話で問い合わせましたが、ほとんど相手にしてもらえませんでした。「前例がない」「採算が合わない」と断られることの繰り返しで、返信すら来ないことも珍しくありませんでした。

それでも諦めずに何社もアプローチを続け、ようやく熱意に応えてくれるパートナーと出会うことができました。しかし、そこから試行錯誤の日々が始まりました。1回修正をかけると1ヶ月半ほどかかるため、ウィッグの位置や長さ、カール具合の修正など、地道な作業を繰り返し、開発にはトータルで1年半ほどを要しました。

開発は今もお1人でされているんですか?

原: そうですね。デザインのベースは私が作成し、実際に罹患者の方に着用していただいて感想や意見をいただいています。お客様からのアドバイスもいただくため、それを真摯に受け止めて、開発やマイナーチェンジを何度も繰り返しています。例えば、お客様から「ずれやすい」という声をいただいた際は、型紙を変更してずれにくくする、その繰り返しです。

ブランド名にもこだわりがあると伺いました

原: ブランド名の「BAREN(バレン)」は、関西弁の「バレへん(バレない)」が由来です。辛い闘病中でもくすっと笑えるような、明るい気持ちになってもらいたいという思いを込めて、最終的にこのユーモラスなネーミングに決定しました。

先日、試着会に参加したお客様から、ご主人と「バレへんのバレンやで」と大爆笑していたという話を聞きました。くすっと笑ってもらえればと思っていたのが、まさかの大爆笑になるとは。そのように夫婦で笑い合える時間を提供できたことが、本当に嬉しかったです。

「おしゃれは心のビタミン」人や社会とのつながりを大切にする、ウェルビーングのあり方

お客様からの反響はいかがですか?

原: 本当に多くの嬉しいお声をいただいています。サイトには3500件を超えるレビューが寄せられており、中でも最も多いのは「外に出られるようになった」「家族や友人に褒められた」というお声です。病気になると、どうしても引きこもりがちになってしまいます。しかし、この帽子を着用することで自信がつき、もう一度外の世界へ踏み出す勇気が湧いてくるのです。おしゃれが社会とのつながりを取り戻すきっかけになっているようです。

特に印象的だったのは、「病気をする前よりもおしゃれになって、このスカーフハットに合わせて新しい服を買いに行こうと思います」というレビューでした。これには本当に感動しました。病気になる前の状態に戻るだけでなく、病気をきっかけに新しい自分を発見して、よりポジティブな状態へと変化したという、嬉しい言葉ばかりをいただいています。

お客様の意見から生まれた商品もありますか?

原: カラーバリエーションの一つに、お客様の「推し活で使いたい」というリクエストから生まれたブルーのものがありますが、これが非常に人気です。ケア帽子が単なる医療用具から飛び出し、自分の「好き」を表現して趣味を楽しむためのファッションアイテムとして機能しているのです。特に、皆さん最初は黒や紺といった無難な色から入られるのですが、一つ手に入れると、次はもっと派手な色や柄が欲しくなるようです。「沼にはまっちゃう」と笑いながら、様々なデザイン・カラーの商品にチャレンジしているとお話しくださいます。

ウェルビーイング(心と体が満たされた健康的な状態で過ごすこと)についてはどのようにお考えですか?

原: 私の会社のウェルビーイングの考え方は、「心と体が満たされていること」に加えて、「人や社会と温かいつながりを持っていること」だと考えています。病気によって失われがちな「外出への意欲」「人との交流」「自分への自信」を、おしゃれを通じて取り戻していただきたい。単に体調が良いだけでなく、「今日は友人に会いに行こう」「新しい服を買いに行こう」と前向きな気持ちで行動できる状態こそが、BARENがウェルビーイングに貢献できるポイントだと思います。

だからこそ、私たちの商品は、このウェルビーイングの考え方にまさに適合していると思います。おしゃれをすることは、自分の気持ちを盛り上げて元気になれます。おしゃれは「心のビタミン」という考え方で、お客様一人ひとりに前向きな一歩を踏み出すための価値を提供していきたいと思っています。

「自分のため」から「みんなのため」へ。闘病と事業から変化した、新しい価値観

実際に利用された方は、心境や行動が大きく変わったとレビューにありました。この事業を通して、原さんご自身の心境にも大きな変化をもたらしたのでしょうか?

原: 大きく変わりました。正直に言うと、事業を始めた頃は「家族のためにお金を残そう」という思いで、家族が幸せになる分だけ稼いで死のうと思っていました。そのため、会社の名前も家族のイニシャルから「MAYK」と名付けました。

もともと自分が欲しいものを形にしたものだったので、多くの人に受け入れられるか心配で、最初は商品に対する自信があまりなかったのです。しかし、商品が世に出ると、お客様から温かい感謝のレビューを本当にたくさんいただきました。感謝の言葉を聞くたびに、本当にやってきて良かったと思うようになり、いつの頃からか一人でも多くのお客様の心を軽くしたいという使命感のようなものが一番になっていました。

事業をスタートしてから新しくチャレンジしたことはあるでしょうか?

原: 病気になる前は、人前で話してくださいということがあっても、ことごとく逃げ回るくらい、絶対に人前に出たくありませんでした。しかし、事業を拡大するためには必要だと、インスタライブなどを行うようになりました。

すると、お客様から「まゆみさんのスタイリングが見たい」や「どんな服に合わせたらいいですか」といった声をいただくことが増え、今では皆さんのお手本にならなければいけないと思って頑張っています。逆説的な形ですが、自分のためではなく「みんなのためにおしゃれをする」ように、お客様に求められることで自分も成長させてもらっています。

やりたいことは迷わず始める。ためらっている時間はもったいない

最後に、病気などでつらい状況にあっても、自分らしく生きようと思ってる方々へメッセージをお願いします。

原: 病気になると、お酒やスポーツ、旅行など、諦めなければいけないことはたくさんあります。しかし、「おしゃれ」と「快適さ」は決して諦めなくていいと、私はそう信じて事業をスタートしました。

このモチベーションとなったのは、死を意識したことです。死を意識し始めると、人生の残された時間がもったいなく感じるのです。だから、やりたいことはもう迷いなくやるべきだ、ためらっている時間はないという風に考えが変わりました。

大変でしたが、過去は嘆かない。嘆いても仕方がないから、未来を変えようという思いが私の今につながっています。今回のインタビューが、誰かにとって自分らしく生きるための小さなきっかけになれたら、それ以上に嬉しいことはありません。

自分がやりたいことを貫けば、人の共感につながる。だからこそ、自分らしさを諦めない

今回は、がんの闘病をきっかけにウィッグ付き医療用帽子「BAREN」を開発した、株式会社MAYKの代表、原まゆみさんにお話を伺いました。

がんは治療だけでも大変なことが多く、そのうえ髪の毛まで抜けてしまうという状況に、気持ちが塞がってしまう方もたくさんいる――原さんは、自身の体験の中で感じた心の塞がりを、「おしゃれ」と「快適性」を両立させることで、ポジティブに治療に向き合えるようになる商品を生み出しました。

自分の意見や感性を貫き通すのは難しいことも多いですが、人生に迷っている時間はありません。悩むよりも、やりたいことは今すぐにでもやり始めることが、自分らしさを諦めず、自分らしく生きるために必要だと教えてくれました。

ウィッグ付き医療用帽子専門店 【BAREN(バレン)】

SUPERVISERこの記事を監修した人

profile
原 まゆみ(はら まゆみ)

原 まゆみ (はら まゆみ)

株式会社MAYK
代表取締役

大学卒業後リクルートを経てサイバーエージェントにウェブデザイナーとして入社し、新規サービスの立ち上げなどを数多く手がける。
結婚後、自宅のリノベーションをきっかけに、二級建築士とインテリアコーディネーターの資格を取得。オーダー家具ブランドのD2Cベンチャー企業にて、インテリアデザイナーとしてスタートアップから携わる。

2021年7月子宮頸がんを患い、治療中に感じた「もっと快適でオシャレなウィッグや帽子が欲しい」というホンネと、同じような悩みを抱える女性が大勢いることを知り、医療用帽子のブランドBARENを立ち上げる。
開発期間1年を経て、2023年3月販売スタート。

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
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この記事は、働く女性の医療メディア
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