伊藤千晃さん×石垣洋子先生×吉形玲美先生によるフェムテックスペシャルトークショー【わたしをもっと愛そうフェス -Femtech SENDAI 2024-】
"フェムテック""フェムケア"という言葉の浸透を目指し、近年は日本各地でさまざまなイベントが開催されています。2024年11月1日・2日に宮城県仙台市で開催された『わたしをもっと愛そうフェス -Femtech SENDAI 2024-』も、そのうちの一つです。
今回は、同イベントで行われた、アーティストの伊藤千晃さんと、せんだい総合検診クリニックで院長を務める石垣洋子先生、そして産婦人科専門医の吉形玲美先生によるトークショーの内容をお届けします。
フェムテックのお話を軸に、PMS(月経前症候群)や乳がんといった女性疾患についても触れ、女性が自分をもっと愛すために大切なことをお話しいただきました。
ミニコラム:『わたしをもっと愛そうフェス -Femtech SENDAI 2024-』とは
『わたしをもっと愛そうフェス -Femtech SENDAI 2024-』は、東北の女性たちが今よりもっと快適で心地よい日々を送り、夢を諦めず活躍できる機会を作ることを目的に開催されたイベントです。
仙台・宮城の人とまちを元気にする地域コミュニティサイト『せんだいタウン情報machico』が主催しており、今年で2回目の開催となりました。
当日は、乳がん・子宮頸がん検診にも力を入れている『せんだい総合健診クリニック』やフェムケアブランド『est're(エストール)』など、さまざまなフェムテック・フェムケア関連のブース展示や特別セミナーなどが実施され、会場である仙台市中小企業活性化センターには多くの女性が集いました。
伊藤千晃さん×石垣洋子先生×吉形玲美先生の語る、フェムテックを通じた女性のセルフケア
同イベントでは、アーティストの伊藤千晃さんをゲストに迎え、石垣洋子先生と吉形玲美先生も登壇したスペシャルトークショーが開催されました。
伊藤さんは、音楽グループ『AAA』のメンバーとして12年間活動したのち、第一子を出産され、現在は子育てや美容・ファッションなどさまざまな分野で活躍中。
2022年には、日本フェムテック協会認定資格2級(認定フェムテックエキスパート)を取得。近年はご自身の経験と知識を活かし、さまざまなメディアでフェムテック・フェムケア関連の情報を発信しています。
今回は『元気と自信をくれる わたしらしいセルフケア』をテーマに、フェムケアや女性疾患について語っていただきました。
フェムテック・フェムケアとは
――フェムテック・フェムケアという言葉について教えていただければ、と思います。
吉形先生:フェムテックというのは、テクノロジーを活用して、女性の健康課題を解決していくことです。生理周期の予測アプリは日本でも多くの女性が使っていますが、それもフェムテックです。ほかには海外だと、腟や骨盤底筋をトレーニングするための器具をアプリで管理するといったものもあります。
吉形先生:そしてフェムケアは、女性が自分の体をセルフケアするアクションのことです。たとえば「フェムゾーンを丁寧にケアしてみよう」「肌に優しいナプキンに変えてみよう」というようなことがフェムケアにあたります。
フェムテックとフェムケアはいずれも、"女性の健康課題"を解決するためのもので、対象は妊娠や生理、更年期症状など多岐にわたります。
伊藤さんのフェムテック体験談
――伊藤さんは現在、さまざまなフェムテックを取り入れられていると思いますが、そのきっかけはなんだったのでしょうか?
伊藤さん:知り合いに教えてもらったのがきっかけですね。
出産を経て体の調子が悪くなっている実感がありました。20代のときと比べて朝起きるのもつらくなりましたし、PMSも悪化して、出産をきっかけにジェットコースターが大きく傾いたかのように不調を感じていました。
そんなときにたまたま知り合いに「フェムテックというのがあるから、調べてみたら?」とアドバイスをもらって。当時は「なんだろう?」と思いながらも調べたのですが、そうすると自分の悩みにすごくマッチする情報がたくさん出てきました。
「これは、もっと勉強したいな」と思って、そこからフェムテックの情報を集めて今に至ります。
――実際にフェムテック・フェムケアを取り入れてからは、どのような変化を感じられましたか?
伊藤さん: まず私は、出産後にフェムゾーンの乾燥がすごく気になるようになったんですね。そのうえでどうすればいいのか、そもそも保湿していい場所なのか? ということも知りませんでした。自分で調べるようになってからは「フェムゾーンは保湿していい場所なんだ」ということを知って、気持ち的にも楽になれました。
PMSに関しても、サプリメントなど自分に合ったものを取り入れたり、アプリで管理したりすることで、つらさが軽減されましたね。
また、出産後にもダンスをすることがあったのですが、「経血が漏れてしまわないかな」という不安を抱えながらステージに立つのがとにかくストレスでした。でも給水ショーツを使うようになってからは安心感があって、かなりストレスフリーになりました。
――現在、フェムテック・フェムケアに関する情報は、どのような想いで発信されていますか?
伊藤さん:生理痛やPMSをはじめ、「女性不調への対処法はいろいろな選択肢がある」ということをみなさんに発信して、みなさんにも選択肢を持ってもらいたい......と思っています。
私は姉が2人いるので家族に女性が多いのですが、生理痛ひとつとっても、当事者なのにみんなあまりよく知らないのが現状です。
「お腹痛いの? じゃあ痛み止め飲もうか」以上の解決策がなくて、私もそういうものだと思って過ごしてきました。でも実はもっと選択肢があって、精神的にも体にも負担のないものを選べるということを、フェムテックを勉強するようになってから知りました。
――先ほどお話にも出てきたPMSについて。「これってPMSなんだ」と知ったときの衝撃は大きいですよね。
伊藤さん:私の場合、PMSの症状ですごくネガティブになってしまいます。20代のときは「私なんて、ここにいる価値がないんじゃないのかな......」とすら思ってしまっていました。
そんな折、20代後半で生理周期アプリをつけるようになったのをきっかけに、「この落ち込みはPMSだ」ということに気づきました。
自分のマインドが落ち込むとき、仕事をしていても涙が出てくるようなタイミングは、必ず生理の1週間前なんですよ。それを見て「これってPMSだったんだ!」と気づいて、ちょっと救われた気持ちになりました。
吉形先生:伊藤さんが実際にやられていたように、生理周期やPMSの起きるタイミングを自分で把握できると、それだけで心がとても楽になるので、みなさんにもぜひ試していただきたいと思います。「そろそろ気分が落ちる時期だな」「もうすぐお腹が痛くなりそうだな」と予測できていれば、フェムテックなどを使って対策することもできます。
なお、生理周期を把握する方法としては、基礎体温を毎日記録するのも非常におすすめです。排卵があるとホルモンバランスの変化で基礎体温が上がるので、体温の変化をみれば排卵のタイミングや生理周期もわかります。
また、もし体温の変化がみられない場合、ホルモンバランスが崩れていることにご自身で気づけるので、婦人科にアクセスするきっかけにもなります。
石垣先生:"自分の体を知る"ってとても大切なことですし、同時に楽しいことでもあります。体の状態がわかったら、「何をどうすれば毎日がもっと楽しく輝いて、ワクワクした気持ちで過ごすことができるんだろう」と考えることができます。
特に基礎体温に関しては、「自分の体に今、何が起きていて、これから何が起きそうなのか」が事前に把握できるという意味で、とても貴重です。
女性の健康問題は"我慢しないこと"
――伊藤さんは、20代の頃は『AAA』の活動でお忙しかったと思います。当時はご自身の体について、何かお悩みは抱えていましたか?
伊藤さん:とにかく忙しかったので、自分のケアが後回しになってしまっていました。それに女性の健康問題は「我慢するもの」という認識があったので、スタッフさんにすら「今日、生理痛でつらい」と言えませんでした。
でも、今にして思うのは、そういったつらさをきちんと伝えることができていればよかったな......ということです。それができていれば、自分にとっても周囲にとってももっと良い雰囲気で仕事ができたんだろうな、と思います。
石垣先生:女性ってなぜか、ものすごく我慢強い。小さいときからそういったつらさを当たり前に我慢して、自分だけで解決してしまう方がとても多いです。
でも女性の体はホルモンに支配されているので、それを理解して適切にケアしていくことが大切なんだ、というのをみなさんにも知っていただきたいと思っています。
40代からのセルフケア
――閉経前後となると、また体の調子も変わってくると思うのですが、閉経が近い40代以降でのセルフケアのポイントはありますか?
吉形先生:先ほどお伝えした、基礎体温の記録は閉経するまで毎日やっていただきたいですね。
40代以降になると、ホルモンのアップダウンが出てきて更年期症状が気になるようになってきます。ホルモンが揺らぎはじめるタイミングを把握するという意味でも、基礎体温の記録は非常に重要です。
吉形先生:また、検査を受けるのもおすすめです。女性ホルモンに似た"エクオール"という成分は、更年期症状を緩和してくれることがあるのですが、人によってエクオールが生成されやすい体質かどうかが異なります。気になる方は尿検査で体質をチェックしてみてください。
石垣先生:吉形先生のおっしゃる通り、検査はぜひ受けていただきたいですし、そのためにもかかりつけの婦人科医がいると安心ですね。女性、特にお母さんはなかなかご自身のことが後回しになってしまいがちですが、年に一度は検査を受けて、ご自身の体と向き合っていただきたいです。
そして女性が忘れてはならないのが、乳がんにならないことですね。今は2人に1人ががんになる時代ともいわれており、乳がんの受診率は国の掲げる目標が50%なのに対し、仙台ではまだ40%、東京ではもっと低く30%を切っているというのが現状です。
実は、日本人の女性の多くは乳腺の多い"高濃度乳房"だといわれています。高濃度乳房は、乳がん検査としてよく知られるマンモグラフィー検査を受けてもがんが見つかりにくいケースもあります。毎年マンモグラフィー検査を受けているのに、進行性の乳がんにかかってしまうケースもあるので、エコー検査も受けるなど、一人ひとりの乳房に合わせた検査を組み合わせることがとても重要です。
今回のイベントに込められた、それぞれの想い
最後に、伊藤さんと石垣先生、吉形先生から来場者に向けて、コメントをいただきました。
伊藤さん:私自身、もっと自分の体のことを知っていたら、もっと楽しかっただろうな、前向きに居られた瞬間が多かったんだろうな、と思います。これからはそんな自分でありたいですよね。
今日私がお伝えしたことをきっかけに、みなさんの日々が輝いたらすごくいいなと思います。明日の自分のために起こせそうな行動があったら、ぜひ動いてみてください。
石垣先生:これから、女性が誇りと尊厳をもって活躍できる世の中になっていくといいと思います。そのためにはまず、お一人おひとりが、我慢をしすぎないことですね。
みなさんの体はいろんな意味で頑張っています。そんな自分の体をまずは褒めてあげて、そして先ほどお伝えしたように、定期的な検診も忘れないでください。
ぜひ、今日からみなさんで輝いて生きていきましょう。
吉形先生:今日から始められるフェムケアの一つは、フェムゾーン用のソープで洗うセルフケアです。一般的なボディーソープで洗うのは大切な菌まで洗い流してしまうなど悪影響が大きいので、ぜひ取り入れていただきたいです。そのほかにも、アプリでの生理周期の管理など、今日ご紹介した方法を試してもらえるといいな、と思います。
フェムテックを取り入れて、自分をもっと愛せる毎日を
以上、『わたしをもっと愛そうフェス -Femtech SENDAI 2024-』でのスペシャルトークショーの様子をお届けしました。
自分の体を意識してフェムテックを取り入れることで、自分をもっと愛せる毎日を送れるようになるはずです。今回お伝えした内容を参考に、ぜひフェムケアを始めてみてください。