「しんどい」って言えない...気付かぬうちに溜まるストレスとの付き合い方

検査をしても何ともないのに、なぜか体調が優れない、気分が落ち込む――責任感の強い人であるほど、本当はつらくて苦しいのに、無意識に「しんどい」と言ってはいけない気がして、心に収めていることがあります。また、つらいと感じていることすら自覚できていなかったりすることで、知らず知らずのうちにストレスが溜まり、心身に支障をきたすこともあるといいます。

そんな「見えないストレス」をくみ取ってケアするには、どうすればいいのでしょうか。自分で悩みの原因を探る心理カウンセリングの視点から、心理カウンセラーの半澤久恵さんに教えていただきます。

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不調の起点を探ると、原因が見えてくる

――理由がわからないのに体や心がきついのは、とても苦しい状態ですね。

皆さん、漠然とした不安や原因不明の不調に悩んで、解決の糸口を探しにいらっしゃいます。

<漠然とした不安や原因不明の不調>
・ぐるぐると同じことばかり考えて悩んでしまう
・些細なことにイライラして周りにあたってしまう
・なんとなく体調が優れなくて、やる気が出ない
・昔は楽しかったのに、今は毎日がつまらない
・ワクワク感がない

さらに、自分がそうした状態であることによって、「周りに迷惑をかけているのではないか」「誰の役にも立たないダメな人間だ」といった、自己嫌悪と自己否定に苦しんでいる人もいます。

――心理カウンセリングでは、どのようにしてその人が抱えている本当の悩みに近付いていくのですか?

始めにお聞きすることが多いのは、

・いつからつらいのか(今の状態がどのくらい続いているのか)
・心と体の調子がいいのはどんなときか

の2つです。

最初の質問には、ここ1ヵ月で急激に心身の状態が変わったと答える人もいれば、半年や1年我慢していたと答える人もいます。中には、お話をしているうちに「こういう性格だから仕方ないと思っていたけど、実は若い頃からずっと生きづらい感覚があった」と気付く人もいらっしゃいますね。

こうやって状態を客観視するのは、自分の内面を知るためにとても大切なこと。例えば、半年前や1年前と起点がはっきりしているなら、そのあたりで起きた出来事や環境の変化を振り返ってみましょう。

その人自身はその出来事をストレスと捉えていなかったり、それをストレスだと感じてはいけないと無意識で思ったりしていますが、実は心理状態に大きな影響を与えているトピックが見つかる可能性があります。

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介護や育児、仕事は「しんどいと言えない」ストレス

――更年期以降の女性の場合、どのようなトピックが目立ちますか?

人によって本当にさまざまですが、介護や育児、仕事に関することが多い印象ですね。

介護は、認知症や病気の後遺症、精神疾患などを抱えた家族や近親者、友人、知人などを無償でケアする「ケアラー」と呼ばれる人の存在が、メディアなどでクローズアップされるようになりました。ケアラーの多くが社会的孤立や心身の不調を感じているといわれますが、どうしても介護する相手を優先して、「つらい」「苦しい」といった感情を抑えてしまいがちです。それは、無意識に抑えていることもあるんですよ。

育児や仕事も同じですね。少なくないストレスを受けているにもかかわらず、「子供のために」「一緒に働く人のために」と考えて、自分のことを後回しにして無理をしてしまう人が多いのです。

特に更年期世代では、子育てと介護、仕事と介護を同時に行うダブルケアラーも少なくない印象で、その肉体的・精神的な負担は非常に大きいといえるでしょう。

――ストレスを受けていながら我慢している、もしくはストレスに気付いていないこともあるんですね。

そうですね。介護や育児、仕事に関することは、しんどいことをしんどいと言えない、もしくは言いづらいストレスの代表格です。

・お世話になった身近な人を介護するのは当たり前のこと、弱音なんて吐けない
・子供をサポートできるのは親である自分だけだ
・忙しいのは自分だけじゃないから、休みたいなどといっては申し訳ない

といった心理が働くことによって、無意識のうちに感情を抑制してしまうのですね。

・少しでいいから自分の時間が欲しい
・このままでは、育児や介護に明け暮れて人生が終わってしまうのではないか

といった感情を吐き出すことに対する怖さもあるでしょう。

「一度吐き出してしまったら、明日からもうがんばれなくなるかもしれない。そうなれば周りの人に迷惑をかけるし、家族も悲しむだろう」――苦しんでいる人には、そんな風に考える責任感の強い人が多いと感じます。

――性格的なものもあるのですね。

一般的に、断ったり頼んだりするのが苦手で、「ちゃんとした人」「いい人」と周囲に評価されている人のほうが、しんどいといえずに悩む傾向にあるのではないでしょうか。

しっかりとしていて、気遣いができるあまり、自分の気持ちより周りの人の気持ちを優先してしまうような人ですね。


ネガティブな感情をそのまま受け止めて、肯定してあげる

――見えなかったストレスに気付いたら、どう対処すればいいですか?

自分の不調の原因に気付くことができるだけで、大きな一歩です。

ストレスに気付いた後は、ストレスを感じる行動をしているときの自分の感情や体の感覚に目を向けてみましょう。このとき、「思考」と「感情」を切り離して、感情と感覚だけをくみ取ることが大切です。

介護をしている方を例にとって、思考と感情・感覚の違いを見てみましょう。

■思考と感情の違い

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この感情・感覚に気付くことができたら、真っ直ぐにその感情や体で感じたことを受け止めて、

・「一人ぼっちで寂しい」なら「寂しいよね」
・「自分の時間がなくて悲しい」なら「悲しいよね」
・「周りに気を遣われている」と思ったら「胸がギュッと苦しくなるよね」

と、自然と湧いてくる感情を肯定してあげてください。苦しんでいる人は、ネガティブな感情の存在自体をいけないことだと思っているんです。それは決して悪いことではありません。

「こんなにつらいんだから、ネガティブな気持ちが出てくるのも当然!私も自分の時間が欲しい!」と感情に対してオープンな気持ちになれれば、胸や喉に何かがつかえたような苦しさから解放されやすくなります。頭ではわかっていても実践するのは難しいものですが、焦らず気長に取り組んでみてください。

――一方で、悩んでいる人に対して周囲ができることがあれば教えてください。

「ただ聞いてあげる」ことです。悩んでいる人にとって、誰かにそれを話すのはとても勇気がいること。アドバイスしたり、励ましたくなったりすると思いますが、それをぐっとこらえて、ただ聞いてあげてください。

「そんな感情が湧き起こって悲しいのだな」と、相手の気持ちに寄り添うように聞いてみましょう。「つらいよね」「休みたいよね」「腹が立つよね」と理解を示してもらえるだけで、相手の心はきっと軽くなるはずです。

自分の感情をオープンにするのがどうしても苦手な人には、カウンセリングやセラピーもおすすめです。心理カウンセラーの仕事は、相談者の心に寄り添うこと。解決法や意見を押し付けるのではなく、伴走者として歩みをサポートしていきますから、お気軽にご相談ください。


※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
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