顔や体が熱い、めまいがする...「肝陽上亢」にはどんな漢方が最適?

顔や体が突然カーッと熱くなったり、ぐるぐると目が回ったりふわふわと浮く感じがしたり、顔色が赤らんで見えたりする症状は、更年期によく見られる代表的なもの。漢方では、水分不足が原因で熱を帯びる、「肝陽上亢(かんようじょうこう)」と呼ばれる状態の人に起こりやすいといわれています。
今回は、肝陽上亢の特徴と、その症状改善に効果的な漢方薬について、漢方・薬膳の専門家である杏仁美友さんに教えていただきます。まずは自身の体質を知り、適した漢方を知ることで、症状が重くなる前に対処しましょう。
まずはご自分の体質タイプをチェックしましょう
【体質タイプ診断】更年期の症状を緩和する漢方を知るには?
肝陽上亢ってどんな状態?
肝陽上亢は、なじみの薄い字で、イメージがわきづらいものですよね。
「肝」の字が入っているので、気の流れをコントロールする「肝」の働きも影響しているのですが、ベースは肝と腎の両方が衰える「肝腎陰虚(かんじんいんきょ)」「肝気うっ結(かんきうっけつ)」です。
■肝腎陰虚について詳しくはこちら
更年期のほてりやのぼせ、目の症状におすすめの漢方は?
■肝気うっ結について詳しくはこちら
イライラ、憂鬱、怒りっぽい―心の不調に◎な漢方は?
「体質タイプ診断」でいうと、Bの気滞、Cの血虚、Eの陰虚の人が当てはまりやすいですね。
ここで簡単におさらいをすると、肝腎陰虚は肝と腎の潤す機能が低下している状態。自律神経や代謝の調節、解毒、血液のストックといった役割のほか、情緒を安定させる働きもある「肝」のほか、成長や発育、生殖などを司り、体を温める「陽」と体を潤す「陰」の働きを兼ね備える「腎」が衰えることによって、体を冷まして潤す機能が不足し、ほてりや足腰のだるさといった症状が現れます。
<肝腎陰虚の主な症状>
・ほてり
・足腰のだるさ
・上半身ののぼせ、汗をかきやすい
一方の肝気うっ結は、気が滞って肝の働きが鈍った状態のことを指し、イライラや下痢・便秘といった、さまざまな症状が現れます。
<肝気うっ結の主な症状>
・イライラ
・憂鬱
・怒りっぽい
・すぐに落ち込む
・喉の詰まり
・下痢や便秘
・おなかや脇腹、乳房の張り
この2つのいずれかの状態が長引くと、水分不足の状態や気の滞った状態が進行し、いっそう体が熱を帯びる肝陽上亢になるわけですね。
肝陽上亢の症状、特に「高血圧」には要注意!
潤いが足りないことによって体がほてっているので、肝腎陰虚の症状である足腰のだるさ、ほてりといった症状がよりひどくなって、
・強いのぼせやめまい
・目のかすみ
などが起こります。
また、肝の乱れで自律神経や怒りのコントロールがしにくくなるので、肝気うっ結と同様に
・イライラしやすい
・怒りっぽい
といった症状も起こります。
肝陽上亢の症状の中で注意したいのが、さまざまな合併症を引き起こしやすい高血圧。肝陽上亢になると高血圧症の症状が出やすいので、血圧を測ってみて、以前とどれくらい数値が異なっているかを確認することをおすすめします。
肝陽上亢ではなくても、血圧は年齢とともに上昇する傾向があるので、計測の頻度を少し上げてみましょう。年に一度の健診や、何らかのきっかけで眼科を受診した際の眼底検査で高血圧が判明すると「急に上がった」と驚きますが、経年の変化を知ることが早めの対処につながります。
肝陽上亢におすすめの漢方は「杞菊地黄丸」と「釣藤散」
肝陽上亢は、体を温める「陽」が高まった状態ですが、重要なのは「(体を潤す)陰が少ないから陽が高まって見える」ということ。まずは、全身に潤いを届けるために、気血水(※)のうち全身に栄養を届ける「血」と、全身に潤いを届ける体液や分泌液を指す「水」を補って、陽を鎮める必要があります。
※気血水の考え方についてはこちら
更年期世代の心身のバランスはどう測る?漢方ならではの考え方
そこでよく用いられるのが、「杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)」と「釣藤散(ちょうとうさん)」です。
杞菊地黄丸...目の症状が強い人に◎
「杞菊地黄丸」は、肝腎陰虚の人におすすめの漢方として紹介した「六味地黄丸(ろくみじおうがん)」に、肝機能を高めて気を巡らせる「菊花(きくか)」と、肝や腎の作用を補い目の働きを助けてくれる「枸杞子(くこし)」を加えた物。
肝陽上亢の徴候があり、特に目の症状――しょぼしょぼする、かすむ、疲れる――が強い人に向いています。
杞菊地黄丸には8種類の生薬が配合されており、それぞれさまざまな働きがあります。
■杞菊地黄丸に含まれる生薬の働き


釣藤散...高血圧ぎみな人、頭痛・耳鳴りが気になる人に◎
釣藤散は、朝から起こる慢性的な頭痛やめまいに効果が期待できるとされ、高血圧からくる頭痛にもよく処方される漢方薬です。明らかに高血圧ぎみな人、頭痛や耳鳴りが気になる人は、釣藤散から始めてみましょう。
釣藤散には、11種類の生薬が配合されています。
■釣藤散に含まれる生薬の働き


杞菊地黄丸と比べると、釣藤散には「補腎(ほじん)」に関する生薬が入っておらず、代わりに気を補う生薬が入っています。このことから、杞菊地黄丸も釣藤散も、のぼせやめまいを改善しますが、胃腸が弱い、元気がないなど、虚弱ぎみの人には釣藤散が向いています。
肝陽上亢を悪化させないためにできることは?
まずは、食生活を意識するといいと思います。肝陽上亢は、どうしても血圧が高くなりやすいので、熱を冷まして血圧を下げてくれるセロリやセリ、トマト、ミント、緑茶などを、積極的にとるようにしましょう。
トマトには自律神経を鎮める効果もあります。セロリとトマトを、卵といっしょに中華風の炒め物にすると、効果的な食材を一度においしくとれるのでおすすめですよ。クコの実は、菊花といっしょにお茶に入れて、ふやかして飲むのが簡単でいいと思います。
自分に合った漢方を選ぶのはもちろん、食事から改善するのも重要。肝陽上亢の症状が出てきても、早い段階で対処すれば悪化を防ぐことができます。年齢によるものだから仕方がないとあきらめず、体の機能を整えていきましょう。
お話を伺ったのは...
杏仁美友(きょうにん・みゆ)さん
一般社団法人薬膳コンシェルジュ協会代表理事、国際中医師、中医薬膳師、漢方&薬膳アドバイザー。
漢方薬や薬膳で自身の体調不良を改善したことをきっかけに、漢方や薬膳の世界に興味を持ち始める。2011年に薬膳コンシェルジュ協会を設立して、薬膳や薬膳茶の資格講座の運営を行うほか、テレビや雑誌などの取材、レストランのメニュー監修、総合情報サイト「All About」の漢方・薬膳料理ガイド、薬膳サプリの商品開発、講演会なども精力的にこなしている。
「マンガでわかるおうちで簡単! 薬膳・漢方」(池田書店)をはじめ、薬膳にまつわる著書も多数執筆。最新著書は「まいにちの食で体調を整える! プレ更年期の漢方」(つちや書店)。
「まいにちの食で体調を整える! プレ更年期の漢方」(つちや書店)
著:杏仁美友 定価:1,400円(+税)
recommended
カテゴリー