「ピロリ菌」とは?胃がんの原因になる「ピロリ菌」の感染原因と除菌方法

2013年から除菌治療が保険適用になり、その名前が一般に広く知られるようになった「ピロリ菌」。実は、胃の病気に直結する細菌で、特に胃がんの9割以上はピロリ菌が原因であることがわかっています。国内の感染者数は、年齢が低くなるにしたがって減少傾向にあるものの、今なお50代以上を中心に感染者が多く、ILACY(アイラシイ)世代にとっても決して他人事ではありません。

今回は、「ピロリ菌って何?」という素朴な疑問から、検査および除菌の方法とそのメリットまで、東京ミッドタウンクリニックの消化器内科医師、古川真依子先生に伺いました。

最もピロリ菌を疑いやすい所見は「家族歴」

――まずは、「ピロリ菌とは何か」という基本から教えてください。

ピロリ菌は、胃の中に生息する細菌です。感染は子供のころ、だいたい中学生くらいまでに成立し、そのほとんどは除菌しない限り胃の中に棲み続けます。ピロリ菌に感染すると胃の中に炎症が起きますが、感染した時点で自覚症状はありません。

ピロリ菌は、5~10年という時間をかけて炎症を進行させ、胃の細胞を萎縮させて正常な働きを弱めることによって、少しずつ病気の発生要因を作っていきます。感染から何らかの疾患を発症するまでの期間は人によって異なりますが、だいたい30~40代で慢性胃炎になって、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどに進行していくという流れが一般的だと思います。胃がんの9割以上はピロリ菌感染が原因ですね。

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ピロリ菌イメージ

――何が原因で感染するのでしょう。また、大人になってから感染することもあるのでしょうか。

ピロリ菌の感染には衛生環境が大きく関わっていて、昔は井戸水に起因する経口感染が多くを占めていました。井戸水の直接的な摂取だけでなく、ピロリ菌に感染した大人が子供に口移しで食べ物を与えることによって感染が拡大したと考えられています。現在の30~40代の感染者の大部分は、口移しが原因ですね。

衛生環境が大幅に改善した今、若年層の感染は減少傾向にあるものの、30~40代で15~20%、50代以降になるとぐっと感染率が上がって50%ほどが感染しているといわれています。ただ、基本的に大人になってからの感染はありません。発展途上国で長く生活していて、水から感染したというケースを診たことはありますが、非常にまれだといっていいでしょう。

このことから、最もピロリ菌の感染を疑いやすい所見は「家族歴」です。家族の中に胃がんの方がいる、ピロリ菌を除菌した人がいるという場合は、早い段階での検査をおすすめします

除菌の成功率は1回目でおよそ8割、2回目で9割

――検査はどのように行われるのですか。

ピロリ菌に感染しているかどうかを調べる検査には、スクリーニングのために行われる血液検査のほか、除菌後の判定などで行われる呼気検査、尿検査、便検査があります。より正確な結果を導き出すには胃カメラを同時に行うのが理想ですが、どうしても胃カメラが嫌だという場合は、ピロリ菌の検査だけでもある程度の判定は可能です。

血液検査は、健康診断のオプションとしてもよく利用されていますね。結果は10U/mLを境に陽性と陰性に分けられ、陽性の方と、結果は陰性でも胃カメラの所見を見ると怪しいという方が二次検査や除菌に回るという流れです。

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――検査が陽性だった場合、除菌に移るわけですね。どういった治療法なのでしょう。

抗生物質を2種類と胃酸を抑える薬を1種類、合わせて3種類の薬を朝夕1日2回、7日間内服していただきます。1回目の除菌で、およそ8割の人が除菌に成功します。除菌しきれなかった方についても、抗生物質の種類を変えて二次除菌を行えば、成功率は9割まで上がります。

2007年からは、除菌が不成功だった場合の二次除菌治療にも保険適用が認められていますから、以前より治療を継続しやすくなったのではないでしょうか。一般的なお薬と同じように、アレルギー症状が出る可能性はありますが、大きな副作用はありません。ただ、腸内細菌のバランスが崩れるので、下痢をする人はいらっしゃいますね。

東京ミッドタウンクリニックでは、整腸剤をいっしょに処方して、状態を見ながら調整していただくようにしています。除菌が成功した後には、胃が元気になったことによって逆流性食道炎のような胃酸、胸やけの症状を訴える方もいます。ただ、これは一時的な症状ですので、心配する必要はありません。もしつらいようなら、胃酸抑制剤を処方してもらいましょう。

――毎日決まった時間にしっかりお薬を飲めば、大多数の方が除菌に成功するのですね。もし飲み忘れてしまったら、どうすればいいのでしょうか。

用法・用量を間違えたり、飲み忘れたりすることによってどのくらいの頻度で除菌失敗につながるのかという明確なエビデンスはありませんが、気付いた時点でリカバーしていただくのが望ましいですね。飲み忘れた分と次の分を合わせて一度に倍量飲むより、朝の分を飲み忘れたら夜からまた飲み始めて、服用を継続していただければと思います。飲むタイミングを1回後ろにずらして、7日分を7日半で飲み切るイメージですね。

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ピロリ菌の除菌後は定期検診で胃がんのリスクに備える

――除菌が成功した後、再発や再感染することはあるのでしょうか。

最初に申し上げたとおり、現在の日本の環境では、一度除菌したピロリ菌に再感染する可能性はほぼありません。除菌が成功したかどうかという判定さえきちんとなされていれば、心配はいりません。

除菌によって胃がんのリスクは下がりますが、元々ピロリ菌に感染していない人に比べると、高いです。年に1度の定期検診を忘れずに受診し、検診の際にはできるだけ胃カメラも選択するようにしてください

――若年層の除菌を進める自治体も出てきているそうですね。今後はこうした方向に進んでいくのでしょうか。

胃がんによる死亡数は、診断方法と治療方法の確立によって減少しているものの、罹患率(病気にかかる割合)は依然として高いままです。ピロリ菌の除菌は罹患率を抑える有効な手段ですから、学会も胃がん撲滅運動のひとつとして中学生からのピロリ菌チェックを推奨し始めました。

すでに、大阪府高槻市が成人に対する検査費用の一部助成に加え、中学2年生に向けたピロリ菌チェックと除菌治療費の全額補助をスタートしているほか、同じような取組みが全国各地で検討されています。この流れを受けて、若年層のピロリ菌検査と除菌は次第に一般的になっていくでしょう。10歳でも15%はピロリ菌に感染しているという事実を知って、将来の病気のリスクを低減していただきたいですね。


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SUPERVISERこの記事を監修した人

古川先生

PROFILE

古川 真依子 (ふるかわ まいこ) 医師

医学博士/日本内科学会 総合内科専門医、日本消化器病学会 消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・指導医、日本消化管学会 胃腸科専門医、日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医 、日本カプセル内視鏡学会 カプセル内視鏡認定医、日本人間ドック学会 人間ドック認定医
専門分野:消化器内科・内科

2003年東京女子医科大学卒業
東京女子医科大学附属青山病院消化器内科で医療錬士として関連病院等にて診療にあたり、2008年帰局後は助手として指導にも尽力。2013年より東京ミッドタウンクリニック勤務。胃がん・大腸がん・腫瘍など消化器系の疾患だけでなく、便秘や産後の痔など女性ならではの悩みにも詳しい。

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