脳にしっかり"満足感"を。「間食」を健康維持の味方にする方法

「ダイエットの敵」とわかっていても、なかなかやめられない「間食」。我慢すればするほど、その反動で甘い物を一気に食べてしまい、後悔する――そんな経験を持つ人も少なくないでしょう。
そもそも間食は、本当に我慢しなければならないものなのでしょうか?間食を上手に取り入れて、より健康に、より美しくなることはできないのでしょうか?

今回は「上手な間食の仕方」をテーマに、おすすめの食材や食べるタイミングなどについて、医学的な観点からお菓子開発も手掛ける東京ミッドタウンクリニック特別診察室長の渡邉美和子先生にお話を伺いました。

不足しがちな食物繊維やたんぱく質を補う間食なら◎

――そもそも間食は、本当にいけないものなのでしょうか?

「食べすぎは良くない」という理想論からいえば、1日3回などの規則的な食事で満足できるのがベストですが、間食も工夫次第で体への影響をプラスマイナスゼロ、むしろ「プラス行動」へ格上げすることも可能だと思います。

例えば、普段不足しがちな栄養素を補うように工夫すれば、間食はダイエットや健康維持に効果的に働きます

不足しがちな栄養素の代表としてよく指摘されるのが、食物繊維。加えて、最近は良質な脂質やたんぱく質の不足が見られます。

すぐに手にとれる、例えばパンやおにぎりといった物は炭水化物の割合が多く、代表的なたんぱく質である卵や肉、魚、豆は調理を要するので、多忙な日常生活の中では偏りがちです。

脂質も、摂取する総量は多いのに、体を酸化(サビ)や炎症から守る魚の油などのオメガ3脂肪酸といった良質な油は不足している方がほとんど。そうして不足した栄養素をもし間食を活用して摂取できたなら、それは明らかなプラス行動です。

要は「何を食べるか」、そして「どのように食べるか」が大切なのです。

――食物繊維やたんぱく質、脂質は、意識していないととるのが難しいですよね。具体的に、間食におすすめの食材はありますか?

スティックサラダのような野菜はもちろん、もずくやめかぶといった海藻類は食物繊維が豊富。パックになって売っている物も多いので、安くて手軽です。

切り干し大根やひじきのお浸しといった総菜を常備しておくことができれば理想的ですが、手間暇をかけないということであれば、最近はゆでた状態で冷凍されていてストックしやすい枝豆や、コンビニのお惣菜でいえばおでんのこんにゃくなどがいいと思います。

また、ナッツ類もアーモンドやカシューナッツ、ピスタチオなど食物繊維が豊富。くるみはオメガ3脂肪酸が豊富なので、良質脂質の摂取源として間食に適しています。

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たんぱく質としてパーフェクトなのは卵。ほかには豆類、チーズ、かまぼこや魚肉ソーセージといった魚肉練り製品は手軽ですね。ただし、加工品には糖分や塩分が高い物があるので、その点は注意してください。

商品を選ぶときは、成分表示を確認することを習慣にしましょう。たくさん使われている成分の順に記載されており、自分が必要とする成分、逆に摂りたくない成分の把握に便利です。

「卵の食べすぎは良くない」は誤解。コレステロールは体に必須の栄養素

――間食に卵も良いのですね。卵はコレステロールが多いため、食べすぎは良くないイメージがあります。

コレステロールを理由に卵を敬遠する人がいますが、それは誤解です。そもそもコレステロールは、体を構成する細胞を包む膜やホルモンの材料であり、人間の体になくてはならないもの。食事から摂取するコレステロールの量が少なければ、その分、体内で必要な分が肝臓で合成されるなど、一定量が保たれるようできているので、食品からのコレステロール量を制限する必要はありません

卵は、アミノ酸スコア(体にとって理想的な必須アミノ酸量に対して、どれくらいの割合で必須アミノ酸が含まれているかを示す指標)が100と完璧。まさに完全栄養食です。豆腐などの大豆製品も高たんぱくではあるものの、アミノ酸スコアは卵ほど高くはありません。

たんぱく質不足が深刻な日本人、特に女性にとって、卵は手軽に摂取できる栄養源ですので、間食におすすめの食材のひとつです。

――ほかに、間食をプラスに持っていく食べ方はありますか?

お仕事など、ライフスタイルの都合でどうしても夕食が遅くなりがちな人は、間食によって夕食の量を減らすことができれば、内臓脂肪蓄積につながるマイナス行動のダメージを少しでも減らせます。

一方、糖尿病の人にとっては、間食によって食事の回数は増えても、1回の食事量が減ることで血糖値の急激な上昇を防げる可能性があります。

ちなみに、夕食の時間は、その後に続く睡眠の質に大きく関係します。私は健康指導をする際に、夜12時の「シンデレラタイム」にはベッドに入ってくださいとお願いしています。なぜなら、睡眠は血管や細胞の修復、免疫力アップなどにとても重要だからです。

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ところが、睡眠中もまだ消化が続いていると、血液が消化器官に集まってしまい、全身の修復作業が滞ってしまいます。修復のためにさまざまなホルモンが活躍しますが、空腹でないと分泌されないホルモンがあることも知られています。

ですから、遅くとも21時までにはアルコールを含めた夕食を済ませていただきたいですね。

とはいえ、どうしても21時以降になってしまう方もおられるでしょう。その場合は、15時か16時くらいに間食をとり、その分、夕食を軽めにすれば消化器官への負担が軽減されます

必要最小量の甘い物を食べて、脳にきちんと"満足感"を

――体に良い物だけではなく、たまには甘い物も食べたくなってしまうのですが...。

食事には、栄養素をとるだけではなく、人生に喜びを添えるという大切な意味もありますから、甘い物、おやつやお菓子は大切です。

私自身、「本当においしい」「食べたい」と思う物は、わくわくした気持ちでいただきます。

ただし、食べ方には少しだけ注意が必要です。糖尿病の人の間食でお話ししたように、空腹時にいきなり糖質の多い物を食べるのはNG。血糖値が急激に上がってしまい、体への負担が大きくなるからです。

また、急激な血糖値上昇はその後に必ず急激な血糖値の低下をもたらし、かえって強い空腹感につながってしまうのです。

さらにいえば、最も良くないのは「ながら食い」と「ストレス食い」。どちらも満足感を得られにくいため、際限なく食べてしまうことにつながるからです。

例えば、100円のどら焼きがあったとして、お得だからと何個も買って、果たして大事に味わって食べるでしょうか。結局、だらだらと食べて、いつの間にかなくなってしまうでしょう。

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でも、それが1個500円のどら焼きだったら、そんなもったいない食べ方はしないはず。ちょっとお皿に置いてみたり、包装を楽しんだり、香りや食感のすべてをじっくり味わって食べるのではないでしょうか。

すると、脳にもきちんと満足感が届いて、結果的に必要最小量の糖分摂取で抑えることができるはずです。

「五感を刺激するおいしさ」は大いに楽しむべきだと思います。

――最近、よく目にする「カロリーゼロ」「糖質ゼロ」などのお菓子はどうでしょうか?

脳の満足感という意味では、糖質ゼロやカロリーゼロの菓子類には気をつけていただきたいです。

私が「食べてカラダにイイお菓子」を開発しているときに驚いたのですが、砂糖をゼロにして代替糖類(糖アルコールなど)に置き換えると、どうしても満足感が得られないのです。

糖度が同じでもコクや深みなど、数値にし難いさまざまな食感で私たちはおいしいと感じていることを改めて実感しました。

そもそも甘い物が欲しいというのは、脳が糖分を欲しているから。脳を満足させる糖分が入っていない分、「満足信号」が出ず、制限なく食べてしまうリスクがあります

また、砂糖には保水力や保存力などの甘さ以外の良い作用もたくさんあります。糖質ゼロやカロリーゼロ商品では、砂糖を控える代わりに何が使われているのか、注意を払うことも大切です。

――脳に満足信号をきちんと届けてあげること、そのために必要な最小量の糖分を見極めることが大切なのですね。

ダイエットはいかにして自分の脳をだまし、ストレスフリーに体重をコントロールするかが肝といえます。その意味では無理矢理我慢するのでは続きませんし、何より幸せを感じられないですよね。

私が生活習慣指導をするときは、よく「プラスマイナスで考えましょう」とお伝えします。間食や夜遅い食事は明らかにマイナスかもしれません。ですが、どうやったらそのマイナスを小さく、あるいはプラスマイナスゼロ、あわよくばプラスに持っていけるかを考えてみましょう。

そうすればストレスなく継続できる上、しっかり結果につながる健康づくりができるのではないかと思います。

(取材・文/横井かずえ)


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SUPERVISERこの記事を監修した人

渡邉先生

PROFILE

渡邉 美和子 (わたなべ みわこ) 医師

専門分野:内科・抗加齢医学

1994年 北里大学医学部卒業
慶應義塾大学内科学教室 入局。永寿総合病院勤務などを経て、2003年医療法人社団桃蹊会理事長、2007年マリーシアガーデンクリニック院長を経て、2010年より東京ミッドタウンクリニックへ。2011年東京ミッドタウンクリニック「特別診察室長」に就任、2020年東京ミッドタウンクリニック「外来診療部長」に就任、2022年には東京ミッドタウンクリニック「副院長」に就任。臨床の場で会員制医療における健康危機管理や医療相談に携わるほか、日本抗加齢医学会、日本内分泌学会をはじめ医学学会でのお弁当監修や企業との健康関連事業に取り組むなど、独自の食指導「安心で美味しい食の医療プロジェクト」にも力を入れている。

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※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
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