妊娠線の予防、かゆみ、産後の脱毛...妊娠・出産の肌トラブルの原因とは?

妊娠時は、女性ホルモンの影響から思いもよらない変化が体に表れます。その中のひとつが「かゆみ」。「体がかゆくて夜も眠れない」「気付いたら、かゆいところをかきむしってしまって体中傷だらけ...」など、妊婦さんのストレスは計りしれません。

今回は、なぜ妊娠すると体がかゆくなるのか、さらに妊娠線や脱毛のことなど、妊婦さんが知っておきたい事柄について、東京ミッドタウン皮膚科形成外科ノアージュの上島朋子院長に教えていただきました。

妊婦さんのかゆみの原因はさまざまある

――妊娠時に体がかゆくなることには、どのような原因があるのでしょうか?

「かゆい」といっても、その症状や原因はさまざまです。女性ホルモンの変化に伴う黄体ホルモンの影響によるかゆみや、妊娠初期に急激に基礎代謝が上がって汗をかくようになるために起こるかゆみ、さらには妊娠して下着が合わなくなることによる圧迫などに起因したかゆみもあります。

また、赤ちゃんがおなかの中で育ってくると、体が赤ちゃんを異物だと感じないようにバランスをとるためにかゆくなる場合もあります。大きくなった子宮が胆管(胆のうと肝臓をつなぐ管)を下から押し上げてしまい、胆汁が排出されにくくなってかゆみが出ることもあります。

ほかにも、元々あったじんましんがひどくなる場合もあります。アトピー性皮膚炎の場合は、悪化する場合も、軽快する場合もあります。妊娠糖尿病に関連したかゆみの場合は、妊娠中毒症への注意が必要になってきます。

――妊婦さんのかゆみに病名はあるのでしょうか?

どんな皮疹が出ているかによって病名が違います。代表的なものとして、妊娠性掻痒(そうよう)、妊娠性痒疹(ようしん)、妊娠性類天疱瘡(るいてんぽうそう)、PUPPPなどがあります。



妊娠性掻痒

妊娠性掻痒は、胆汁の流れが悪くなることなどが原因だといわれています。全身の激しいかゆみが生じますが、初めはブツブツとした発疹は現れません。しかし掻き壊してしまうと、赤みやジクジクが出てきます。



妊娠性痒疹

妊娠性痒疹では、3ヵ月を迎えたころから赤くて固いブツブツが出ます。2回目以降の妊娠で生じることが多く、ほとんどの場合は出産後に軽快します。



妊娠性類天疱瘡

妊娠性類天疱瘡は、妊娠性疱疹ともいいます。妊娠4ヵ月以降におへその周りやおしりがかゆくなって赤くなり、やがて水ぶくれができます。

出産後数ヵ月で落ち着きますが、妊娠するたびに繰り返します。



PUPPP

PUPPPは、通常初めての妊娠の後期に発症します。激しいかゆみで、夜も眠れないと訴える患者さんも少なくないもの。出産後は、速やかに皮疹もかゆみも落ち着き、次の妊娠では再発しません。

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――そういったかゆみが、赤ちゃんに影響することはありますか?どう対処したらいいでしょうか?

ママのストレスは赤ちゃんにとってもストレスです。一日中ボリボリかいてイライラするより、できるだけかゆみを緩和させてリラックスすることが大事。保湿剤で肌の乾燥を防いだり、タオルを冷蔵庫で冷やしておいて、それをかゆい部分にあてたりするのもいいでしょう

優しい成分の塗り薬もありますし、安定期に入れば薬を飲むこともできます。つらいかゆみが出たら、まずは産婦人科や皮膚科に相談してください。なお、妊娠中のホルモンの変化や腹圧で起こるかゆみは、出産後には治まります

妊娠線は消せる?予防できる?

――妊婦さんが気になるものとして、妊娠線もありますね。そもそも、これはなぜできてしまうのでしょうか?

赤ちゃんがおなかの中で大きくなるにつれ、お腹の圧力が上昇し、皮下脂肪も増えてきます。すると、皮膚の2番目の層である真皮の伸びが追いつかずにバチッとさけて線状の瘢痕が残るのです。成長期にできる「肉割れ」と同じものですね。

――妊娠線は、出産後もとれないもと悩む女性も多くいますが、妊娠線を防ぐ方法はあるのでしょうか?

真皮が伸びたり縮んだりするときの摩擦を軽減するように、保湿剤やクリームをつけてマッサージを行うといいですよ。ゆっくりと皮膚を伸ばし、急激に伸びないように助けるイメージです。保湿剤やクリームは、なるべくやわらかいテクスチャーのものを選び、肌の表面に余計な摩擦が加わらないようにしてください。優しく皮膚の表面をなでるように、おなかが一番出ているところを中心にマッサージしましょう

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――マッサージを行うのに最適なタイミングはありますか?

お風呂上がりでもいいですが、いつでも気付いたら行うぐらい頻繁でも構いません。マッサージするときは、赤ちゃんに優しく話し掛けてあげましょう。

――ちなみに、できてしまった妊娠線は消せるのでしょうか?

妊娠線ができると、自然には消えません。新しい妊娠線は比較的消えやすいですが、10年以上経過したものはほとんど消えません。美容医療では、レーザーとそのほかの補助療法を組み合わせて線維化した真皮を再構築するといった治療を行っています。ただし妊娠線は、できれば作らないようにしたいですね。

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出産後のショック!なぜ髪の毛が抜けてしまうの?

――出産後のお悩みとして脱毛という声も多いと思いますが、なぜ出産後は髪の毛が抜けやすくなってしまうのでしょうか?

出産後に髪の毛が抜け始め、薄毛になってしまうことがあります。髪の毛は、成長期と退行期、休止期というヘアサイクルを繰り返しています。通常は1本1本がそれぞれのサイクルで成長したり、自然に抜けたりしているのですが、妊娠中は女性ホルモンの影響により、成長期が延びて髪が抜けにくくなっています。しかし出産後はホルモンバランスが元に戻り、成長期にとどまっていた毛が一気に退行期に入って抜けてしまうのです。

退行期に入ってしまうと、休止期から成長期に移るまでタイムラグがあるため、そのあいだは髪の毛が少ない状態になるのです。

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――つまり、そのときは髪の毛が抜けてしまうけれど、しばらくすれば元に戻るということでしょうか?

そうですね、大概の場合は待っていればまた生えてきます。髪の毛が抜けると精神的にガクッときてしまうと思いますが、まずは3ヵ月を目安に様子を見てください。

妊娠・出産では、女性の体が大きく変化します。かゆみや脱毛も皮膚科が窓口になっていますから、困ったことがあったら我慢しないで、ぜひ医療機関に相談してください。


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東京ミッドタウン皮膚科形成外科ノアージュ


SUPERVISERこの記事を監修した人

上島先生

PROFILE

上島 朋子 (かみしま ともこ) 医師

医学博士
専門分野:皮膚科

1992年新潟大学医学部卒業
東邦大学医学部大森病院、栃木県立がんセンター、財団法人鎌倉病院皮膚科部長を経て2016年より東京ミッドタウン皮膚科形成外科ノアージュ勤務、神奈川美容外科クリニックでは10年間非常勤医師として勤務、2018年5月よりノアージュ院長に就任。病理学の研究を経て皮膚科医になった経歴から、「肌」という繊細な臓器をしっかりと見つめ治療・施術を提供することをモットーとする。「肌の健やかな美しさ」にこだわり、疾患の治療から先端美容医療、そして再生医療の研究まで手がける。

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