【医師監修】依存症とは?原因・治療・回復への考え方を解説(前編)

アルコールや薬物、ギャンブル、インターネット、買い物――。
私たちの身の回りには、気づかぬうちに「依存」へとつながりかねないものが数多く存在しています。依存症は特別な人だけが陥るものではなく、誰にでも発症する可能性のある病気です。
今回は、松本俊彦医師(精神科医)にお話を伺いました。松本先生は、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長として、長年にわたり依存症の治療と研究に携わってきた第一人者です。依存症の仕組みや種類、治療と回復の考え方、そして本人や家族が受けるべき支援について、専門的な視点からわかりやすく解説していただきました。

松本 俊彦(まつもと としひこ)医師

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 部長
専門分野:精神科

【コントロール障害】依存症の定義とは?

まずは、依存症の定義から解説します。

依存症の定義(「好き」との境界線)を教えてください。

松本先生:依存症の定義とは、その行為によるメリットよりもデメリットのほうが大きくなっているにもかかわらず、控えたり、やめたりすることができない状態を指します。
普通の状態では、デメリットが大きくなってきたら、さすがに「好き」ではいられなくなりますよね。しかし、依存症になっている方の場合、もうその行為を厳密な意味では好きではなくなっていることが多いです。やることで明らかにデメリットが大きいと分かっていても、やらずにはいられない。
かつては好きだったものを、今は憎みながらもそこから離れることができない。依存症とは、そうした状態を指します。

どうして依存症になるのですか?脳のメカニズムはありますか?

松本先生:人間の脳には報酬系という仕組みがあり、何かを習得したり、技術や知識を身につけたりするうえで、とても大切な働きをしています。例えば、試験勉強を頑張って難関の大学に合格すると、周囲から褒められますよね。そうすると脳の中で「嬉しい」という感覚が生まれ、また頑張ろうと思えるようになります。
このときに働くのが報酬系です。脳の中の深部(中脳)にある腹側被蓋野から、側坐核を経由して、前頭前野まで伸びる神経回路で、ドパミンという物質が分泌されることで活性化します。
褒められると嬉しいから、つらい勉強や練習でも頑張れる。運動や勉強、仕事などを続けていけるのは、この報酬系があるおかげです。

依存症になり、同じ行為を繰り返すようになると、脳の報酬系は徐々に刺激に対して鈍くなっていきます。以前と同じ刺激では満足できなくなり、かなり強い刺激でないと反応しなくなってしまうからです。さらに、ほかの好きなこと・嬉しいことにも報酬系が反応しなくなり、一番好きだったことにしか関心が向かなくなります。
ただ、その一番好きだったことについても、実は感覚が麻痺してきていて、毎回しっかり快感が得られるわけではありません。それでも、かつて得られた快感の記憶だけは強く残り、その記憶に突き動かされて、同じ行為を繰り返すようになります。

代表的な依存症の種類

代表的な依存症の種類や現代ならではの依存症などについて解説します。

主な依存症の種類を教えてください。

松本先生:依存症の種類を大きく分けると、物質と非物質(行動への依存症)への2つの依存症があります。

物質依存には、私たちの身近なものはもちろん、多くの国で違法とされている薬物も含まれます。

  • アルコール
  • タバコ(正確にはニコチン)
  • カフェイン
  • 覚醒剤や大麻
  • ヘロインなど

一方、非物質(行動への依存)について、国際的な専門学会で正式に認められているのは、ギャンブル依存とインターネットゲーム依存の二つです。
ほかにも、買い物がやめられない、万引きが繰り返されてしまう、自傷行為や過食嘔吐など、さまざまな問題が議論されていますが、現時点では十分な科学的根拠がそろっておらず、正式な診断名としては認められていません。
とはいえ、こうした問題に苦しむ方も存在しますし、すでに自助グループが活動している分野もあります。学術的な診断名がなくても、依存症と非常によく似た性質を持ち、問題が生じていることは広く理解されています。

現代ならではの依存症はありますか?

松本先生:現代ならではの依存症の一つに、オンラインゲームがあります。オンライン化によってゲームそのもののスリルや達成感、人間同士のコミュニティの存在が加わりました。ゲームの中で良い成績を収めると、周囲から一目置かれたり、尊敬されたりする場になっています。

  • 学校の教室では居場所を感じられなくても、オンラインゲームの世界には、自分の仲間と呼べる人がいる
  • 実際に会ったことはなくても、つながりを感じられる関係がある。

これは、さまざまなオンラインツールが発展してきた現代ならではの特徴だと思います。
また、これまで日本では、パチンコやパチスロ、公営ギャンブル(競馬・競輪・ボートレースなど)が中心でしたが、コロナ禍をきっかけに大きく広がったのがオンラインカジノです。外出が制限され、多くの人がパソコンやスマートフォンの前で過ごす時間が増えたことで、オンラインへのアクセスが一気に進みました。こうした背景も含めて、オンラインカジノはまさに現代ならではの依存症のかたちだと感じています。

市販薬に依存する若者たちが多いと聞きましたが。

松本先生:この問題を理解するには、若者個人の事情だけでなく、日本社会全体が抱える薬物事情と環境の変化を紐解く必要があります。そこには、日本という国ならではの特殊な背景と、若者たちが直面している切実な壁が関係しています。

日本人は薬物に厳しい国民性ではないのですか?

松本先生:日本は欧米諸国に比べて、違法薬物の使用経験者が非常に少ないです。

  • 「ダメ。ゼッタイ。」などの防止教育が徹底されている
  • 島国ゆえの流入のしにくさ
  • コミュニティからの逸脱を恐れる国民性

などが影響しています。しかし、日本人は違法なものには手を出さない一方で、法に触れない(捕まらない)薬物には非常に弱いという歴史があります。十数年前に流行した危険ドラッグ(脱法ハーブ)も、法の網をくぐり抜けているから捕まらないとわかった途端、多くの人が飛びつきました。「捕まらなければいい」「売っているものならいい」という心理が、日本人の根底にあります。
「ドラッグストアで堂々と売られている医薬品なのだから、法には触れない」という安心感が、ハードルを下げている側面もあります。

なぜ市販薬を選ぶのですか?

松本先生:依存症の現場では、精神科で処方される処方薬の依存がかつて問題になっていました。これは精神科への偏見が薄れ受診しやすくなったこともありますが、処方薬を手に入れるには医師の診察と保険証が必要です。ここに、10代の若者たちが抱える問題があります。

  1. 1. 10代の多くは親の扶養に入っており、自分の意思で自由に保険証を使えない
  2. 2. 「死にたい」「消えてしまいたい」という強い苦痛を抱えていても、親に知られずに精神科を受診することは不可能
  3. 3. でも、苦痛はどうにかしたい
  4. 4. その結果、保険証がいらず、お小遣いの範囲で手に入る市販薬を使う

苦肉の策としてのセルフメディケーション(自己治療)の手段として選ばれてしまっています。

ドラッグストアと依存症に関係はありますか?

松本先生:実は、ドラッグストアが増えたことも大きく影響しています。現代はSNSの時代です。TikTokやInstagramには、加工アプリで整えられた「リア充」な画像が溢れ、若者たちは常に他人と自分の容姿を比較してしまう環境にいます。その結果、10代の早い時期からメイクや美容に関心を持つ子が急増したので、安くて優秀なコスメ(プチプラコスメ)が豊富に揃うドラッグストアに多くの若者が訪れています。
そして、その延長線上で、自分の心を整えるために同じ棚に並んでいる市販薬に手を伸ばすこともあります。

依存症の観点では市販薬は病院の薬より安全なのでしょうか?

松本先生:市販薬は医師が出す薬より効果が弱く、害も少ないと思いがちですが、それは間違いです。市販薬の中にもこのような成分が含まれることがあります。

  • 覚醒剤や麻薬と化学構造が似ている成分
  • 大量摂取によって深刻な不整脈を引き起こし、死に至る危険性がある成分

薬は市販だから安全なのではなく、用法容量を守るから体にとって安全なものになります。市販薬でも乱用すれば違法薬物と同等、あるいはそれ以上に命の危険があることもあります。若者たちは、決して快楽のために薬を使っているわけではありません。生きづらさを抱え、医療にも頼れない中で、身近なドラッグストアにある薬に救いを求めている。これが、市販薬オーバードーズ(規定の用量を超えた過剰摂取)の背景にある本当の姿です。

身近な薬物や、依存症リスクがある意外なものはありますか?

松本先生:身近なものでリスクが高いものは、先ほども解説した市販薬です。実は、日本は覚醒剤や大麻などの違法薬物に対しては、世界でもトップクラスに厳しく、神経質なほどの規制を行っている国です。その一方で、医薬品に関しては相対的に規制が緩い側面があります。 医師である私たちが成分表を見て、「医療現場では依存性が怖くて安易に処方しないような成分が、市販薬に入っているの?」と驚くこともあり、以下のような成分が含まれているケースもあります。

違法薬物に近い成分 覚醒剤取締法や麻薬取締法で規制されている物質と、化学構造や作用の仕組みが非常によく似た成分が低濃度ながら配合されていることがあります。
リスクの高い「古い」成分 現在、医療現場でよく使われる睡眠薬(ベンゾジアゼピン系など)も依存性はありますが、それよりも昔からあり、依存性が強く、大量摂取すると命に関わるリスクが高い成分が、市販薬として売られていることもあります。

依存症の原因:脳・心理・社会の複雑な絡み合い

依存症は、ひとつの原因だけで生じるものではありません。脳の働きや個人の心理状態、そして置かれている社会的・環境的な状況が重なり合うことで、発症のリスクが高まると考えられています。ここでは、依存症がどのような背景のもとで起こりやすくなるのかを詳しく解説します。

【社会的・環境的要因】依存症につながりやすい土台

社会的・環境的要因について、詳しくまとめました。

辛い経験が、依存症の原因になるのでしょうか?

松本先生:貧困や虐待といった辛い環境は依存症のリスクを高めますが、それ自体が直接的な原因ではありません。薬物を一度も使わなければ、薬物依存症にはならないので、「辛い経験がある=必ず依存症になる」わけではないです。
依存症が成立するためには、以下の3つの要素が重なり合う必要があります。

  1. 1. 対象の存在(物質・行為):アルコールや薬物、ギャンブルなどがそこにあり、手を出してしまうこと。
  2. 2. 個人の要因(脆弱性):その人が生まれ持った体質や、精神的な辛さを抱えやすい特性など。
  3. 3. 環境の要因(アクセス・孤立):依存対象が手に入りやすい環境や、誰にも相談できない孤立した状況。

これらが複雑に絡み合った時、初めて依存症のスイッチが入ります。

薬物を使ったら、全員が依存症になりますか?

松本先生:薬物自体の依存性の強さはもちろんありますが、その人が持っている特性や脆弱性(もろさ)によって、依存症になる確率は変わります。実際に、薬物を使用した人のうちどれくらいの割合が依存症になるのかを示したデータがあります。

  • ニコチン(タバコ):約30%
  • アルコール:14%程度
  • 覚醒剤:17%前後
  • 大麻:10%未満(8%前後という報告も)

この個人の要因は、生まれ持った遺伝的なものだけではありません。生育環境とも深く関係しています。例えば、逆境的な環境で育ち、強いストレスやトラウマを抱えていると、心は痛みに対して敏感な状態になります。そうした後天的な生きづらさが、結果として個人の依存リスクを高めてしまうこともあります。

環境や過去の経験も依存症の原因になるのでしょうか?

松本先生:大きく分けて、物理的な環境と社会的な背景(体験)の2つがあります。
まず、物理的な環境は、どれだけその物質や行為にアクセスしやすいかという点です。アクセスしやすいほど依存症のリスクが高まります。

  • 近所にパチンコ店があり、周囲の大人が遊んでいる
  • インターネット環境が整っていて、いつでもゲームやカジノができる
  • ドラッグストアが近くにあり、薬が簡単に手に入る

また、社会的背景も依存症に大きく関わっています。世界的に見ても、貧困や格差、虐待などが存在する地域では、依存症が深刻化しやすいことがわかっています。例えば、実際に違法薬物の依存症で治療を受けている患者さんの中には、小中学校時代にいじめを受けていた経験を持つ方が少なくありません。

なぜ、いじめや虐待が依存症につながるのですか?

松本先生:人から頭ごなしに否定されたり、傷つけられたりする経験を重ねると、困った時に人に助けを求めることが難しくなるからです。人を信じられなくなると、強い不安や辛さを抱えた時に、誰にも相談できず一人で抱え込むようになります。
その結果、一人で苦しさを紛らわすために、手近にある薬物やアルコールなどに頼ってしまいます。つまり、依存症とは、孤立した人が痛みから逃げるために選んだ、悲しい鎮痛手段とも言えます。

【心理的要因】依存症になりやすい性格の傾向はありますか?

松本先生:まず大前提として、「こういう性格だから依存症になる」という決まったものはありません。どんな性格の人でも、依存症になる可能性はあります。ただ、現場で多くの患者さんと接していると、共通する行動の癖のようなものは感じます。それは、「辛い時に人に相談できず、自分一人で抱え込んでしまう」ことです。

  • 人を信じることが怖い
  • 助けを求めると「ダメな人間」だと思われる気がする

こうした不安から、どうしても他人に弱音を吐けない。つまり、その人の性格の問題というよりは、単に人に頼るのが苦手で、相談するのが下手という癖がついている場合もあります。

【依存症からの回復への道筋は ~後編はこちら~】


SUPERVISERこの記事を監修した人

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松本 俊彦(まつもと としひこ)医師

松本 俊彦(まつもと としひこ)医師

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 部長

専門分野:精神科

1993年佐賀医科大学卒業。国立横浜病院精神科などを経て、2004年、国立精神・神経センター精神保健研究所司法精神医学研究部室長。2010年に同研究所自殺予防総合対策センター副センター、2015年より現職。2017年より国立精神・神経医療研究センター病院薬物依存症センターセンター長兼務。日本学術会議アディクション分科会特任連携委員、厚生労働省依存症対策全国センター共同センター長。
著書に「誰がために医師はいる―クスリとヒトの現代論(みすず書房/第70回日本エッセイスト・クラブ賞)、「世界一やさしい依存症入門」(河出書房新社)、「オーバードーズする子どもたち」(合同出版)他多数。

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
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