【医師監修】依存症とは?原因・治療・回復への考え方を解説(後編)

「本人が病院に行きたがらない」「家族として、どう声をかければいいのかわからない」。依存症の問題は、本人だけでなく、支える家族をも深い孤立と混乱に陥れます。
前半記事では、依存症の正体と原因について解説しました。後半となる本記事では、具体的な治療法と家族の関わり方に焦点を当てます。
松本俊彦医師(国立精神・神経医療研究センター)に、回復へ向けた3つのアプローチや、家族がやってはいけない「良かれと思った尻拭い」、そして今日からできる具体的な支援の第一歩について伺いました。
「治癒ではなく回復を目指す」――その言葉の本当の意味とは?
松本 俊彦(まつもと としひこ)医師
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部
部長
専門分野:精神科
依存症を治すために大切な考え方と、3つの治療の柱
依存症治療で必要な考え方と、自助グループ・薬物療法・心理療法の3つの治療の柱をまとめました。
依存症の治療でやめ続けることの難しさは何でしょうか?
松本先生:
依存症は別名、忘れる病気とも言われています。例えば、お酒をやめてから体調が良くなると、お酒で辛い思いをした記憶が薄れ、脳は「もう大丈夫だ」と勘違いします。そのときに頭にあるのは、依存症になる前に楽しくお酒を飲んでいた時の記憶です。
その楽しかった記憶に突き動かされ、つい手を出してしまい、またコントロールを失う。これが再発のメカニズムです。だからこそ、「どうすればその記憶に負けず、やめ続けられるか」という視点が治療で重要になります。
自助グループについて教えてください
松本先生:一人では苦い記憶が薄れ、脳が「もう大丈夫だ」と嘘をつき始めます。その限界を補ってくれるのが、同じ悩みを持つ仲間が集まる自助グループです。グループに参加することには、大きく2つのメリットがあります。
- 未来の希望が見える:自分より先に回復している仲間を見ることで、やめ続けた先にある生活を目標にできる。
- 過去の痛みを忘れない:まだ辛い状態にある仲間を見ることで、「油断したら戻ってしまう」と思える。
回復において孤立しないことはとても重要です。また、代表的な自助グループは次の通りです。
- アルコール:断酒会、AA(アルコホーリクス・アノニマス)
- 薬物:NA(ナルコティクス・アノニマス)
- ギャンブル:GA(ギャンブラーズ・アノニマス)
薬物療法について教えてください
松本先生:アルコールや一部の薬物には有効な治療薬があります。薬物療法には、スリップ(再使用)した際のリスクを減らし、社会生活を守るという重要な役割があります。
治療薬は使い分けますか?
松本先生:アルコールの場合、治療薬は患者さんの目標に合わせて使い分けられています。
- 抗酒剤:お酒を飲むと激しい動悸や吐き気が出るようにする薬。
- 断酒補助(商品例:レグテクトなど):飲みたいという欲求を和らげる薬です。
- 減酒薬(商品名:セリンクロなど):服用するとお酒による快感が減るという最近登場した薬です。
医療用麻薬などは必要に応じて使いますか?
松本先生:ヘロインなどの麻薬依存症に対しては、より安全性が高い医療用麻薬(メサドンなど)に置き換える治療が行われます。医療用麻薬の使用に抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、違法なルートで危険な薬物を入手し続ける生活から抜け出し、仕事を続け、家族との生活を守るためには、非常に有効なアプローチとして世界的に認められています。
薬が効かない依存症はありますか?
松本先生:薬物療法には限界があります。現状で薬が効くのは、アルコールや麻薬など、鎮静作用のあるダウナー系の物質が中心ですが、下記の2つの依存症についての特効薬は現時点ではありません。
- アッパー系:覚醒剤やコカインのように気分を興奮させる薬物
- 行動の依存症:ギャンブル・ゲームなど
これらに対しては、次に紹介する心理療法が治療の中心となります。
心理療法について教えてください
松本先生:薬が効かない依存症には、心理療法が基本です。カウンセリングでただ話を聞いてもらうだけではなく、「自分がどんな時に使いたくなるのか」「どんな状況が危険なのか」といった自分の行動パターンや思考を分析し、再発を防ぐための具体的なスキルを身につけるトレーニングです。
その代表例に、「SMARPP(スマープ)」という私が開発した集団療法プログラムがあります。専用のワークブックを使いながら、同じ悩みを持つ仲間と一緒に自分の「取り扱い説明書」を作っていくようなイメージです。マニュアル化されているため、多くの医療機関や精神保健福祉センターで受けることができます。
依存症の治療のゴールは完治ではなく回復
松本先生:残念ながら、依存症において完治(元通りに適量を楽しめる状態)を目指すことは非常に困難です。脳に依存症の回路が一度でもできると、何年後でもたった一回でスイッチが入ります。
例えば、今日は一杯だけ飲むと決めても、気づけば記憶が飛ぶまで飲んでしまったということもあります。しかし、最初の一杯に手を出さなければ、お酒や薬によって失ってしまった仕事や人間関係、健康などを取り戻せます。本来たどり着いていたはずの自分らしい人生を自分の手で作り直していくことが、私たちが目指す「回復」の本当の意味なのです。
アルコール、薬物、ギャンブルで、治療の方法は違うのですか?
松本先生:ある程度状態が安定した後の治療は、3つとも大きな違いはありません。どの依存症であっても、長くやめ続けるために必要なのは、医療機関のプログラムと自助グループがポイントです。しかし、依存症になってから治療までの流れには、それぞれの特徴が表れます。
アルコール依存症について
松本先生:アルコールが最もダメージを与えるのは、肝臓などの内臓です。まず最初に身体の不調で内科を受診し、そこでアルコール依存症が発覚するケースが非常に多いのが特徴です。
薬物依存症について
松本先生:薬物はアルコールほど直接的に内臓を壊すことは少ないですが、幻覚や妄想などの精神症状が出たり、オーバードーズで倒れたりします。そのため、精神科救急や救命救急センターで薬物依存症だと認識されることが多いです。また、違法薬物の場合は、逮捕をきっかけに警察や刑務所などの司法ルートから治療につながるケースもあります。
ギャンブル依存症について
松本先生:ギャンブルの最大の問題は借金です。病院ではなく、司法書士や弁護士への債務整理の相談がギャンブル依存症と発覚するきっかけとなり、そこからメンタルヘルスの支援につながるケースが非常に多いです。
依存症と発覚するきっかけは、体や心、お金とバラバラですが、最終的に目指す回復のプロセスは同じです。
家族のその「優しさ」が依存症患者の回復を妨げる?
松本先生:家族の中に依存症の方がいると、家族のメンタル状態もよくありません。「育て方が悪かったから」などの罪悪感から、問題を家庭内だけで抱え込み、社会的に孤立してしまうケースが後を絶ちません。
しかし、依存症は本人が病気だと気づきにくい病気ですので、まずは困っている家族が先に相談につながることが治療の第一歩となります。
家族が陥りやすい「イネイブリング」とは何ですか?
松本先生:イネイブリングは直訳すると「可能にさせること」です。依存症治療では、依存行為を続けられる環境を整えてしまう行動(支えすぎ)を意味します。
多くのご家族は本人の失敗をカバーしようとしますが、それがかえって「自分は病気だ」「このままではヤバい」という本人の気づくチャンスを奪ってしまうのです。イネイブリングの具体例をまとめました。
- 会社への嘘:二日酔いで起きられない夫の代わりに夫の会社に連絡する。
- 失敗の尻拭い:泥酔して家で嘔吐した夫の代わりに妻がきれいに掃除する。
- 借金の肩代わり:「もう二度としない」という言葉を信じて、ギャンブルの借金を親が返済する。
なぜ家族の優しさがよくないのでしょうか?
松本先生:例えば、泥酔して吐いた翌朝、綺麗になっている家を見た本人は「昨日は少し飲みすぎたけど、問題なかったな」と安心してしまいます。しかし、自分の嘔吐物の中で目が覚めたら、「俺はなんてことをしてしまったんだ」と危機感を抱くはずです。家族が先回りして助けることで、本人が直面すべき現実を遠ざけ、結果として依存症を進行させてしまう。これがイネイブリングの恐ろしい点です。
イネイブリングが続くと、どうなりますか?
松本先生:「共依存」と呼ばれる状態へ徐々になっていきます。共依存は医学用語ではありませんが、家族が自分の人生よりも相手の世話を優先しすぎて、自分自身を見失っている状態を指します。
依存症の人が「次はいつ飲もうか」と頭がいっぱいになるのと同じように、家族もまた「あの人は今どうしているか」と、24時間相手のことで頭がいっぱいになってしまうのです。
家族が自身の人生を取り戻すとなぜ回復が始まるのですか?
松本先生:あるアルコール依存症の家庭で、象徴的な話があります。
- 1. 自分の化粧や服よりも夫のために必死に尽くしてきた奥様が、ある日「もう私は私の人生を生きる!」と決意。
- 2. 綺麗におしゃれをして外出し始める。
- 3. それまで止まらなかった夫の酒が止まり始めた。
これは極端な例かもしれませんが、家族がイネイブリングをやめて自分自身の人生を楽しみ始めたとき、依存症である本人は初めて自分の問題と一人で向き合うようになります。だからこそ、「本人を変えようとするのではなく、まずはあなたが、あなた自身の人生を取り戻してください」と伝えたいです。それが結果として、依存症の回復を促す最大の支援になります。
家族と依存症患者の適切な距離感はありますか?
松本先生:依存症家族の参加する自助グループなどでよく使われる言葉に、タフラブ(Tough Love)という考え方があります。直訳すると「強い愛」という意味です。
例えば、夫がこぼしたお酒を拭くことは献身的に見えますが、これは夫が自分でやるべきことを奪っている状態です。結果として夫を「家族がいないと何もできない人」にしてしまうでしょう。これは愛ではなく、相手の無力化です。
本当の愛とは、相手が失敗し、その結果に直面する権利を奪わないことです。しかし、家族が手出しをやめると本人は抵抗するので、そのような時、タフラブの出番です。
- 飲むか飲まないかは、あなたの問題であって私の問題ではない
- 私はあなたに長生きしてほしいけど、あなたの行動を私がコントロールすることはできない
このように、きっぱりと境界線を引きましょう。冷たく突き放すわけではなく、相手の人生の責任を相手に返す。それが、依存症における最も健全で、回復につながる家族の距離感です。
依存症をどこに相談する?専門相談窓口と医療機関について
専門相談窓口と医療機関について、どのように活用するのかを解説します。
最初にどこに相談すべきなのでしょうか?
松本先生:本人や家族が助けてほしいと思った時、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは専門病院です。しかし、病院は本人が来院しないとカルテが作れず診療できないので、最初の相談先としてはベストではありません。依存症の治療は依存症患者の家族の相談から始まることが多いので、最初の窓口として強くおすすめしたいのが、精神保健福祉センターです。
精神保健福祉センターとは何でしょうか?
松本先生:都道府県や政令指定都市に設置されている公的な機関です。国の制度として、依存症に関する本人や家族からの相談に対応することが定められています。
- 家族だけでも相談できる:本人が受診を拒否していても大丈夫です。
- 具体的なアドバイスがもらえる:「どんな言葉をかければ医療につながりやすいか」「この地域にはどんな専門病院があるか」など、実践的な情報を得られます。
- 保健所でもOK:センターが遠い場合は、最寄りの保健所でも相談可能です。
センターでは他にどんな支援がありますか?
松本先生:個別相談だけではなく、複数の家族が集まって学ぶ家族教室(勉強会)なども開催されています。さらに、そこから一歩進んで、家族自身が自分の人生を取り戻していくために、民間の家族会(家族の自助グループ)を紹介してもらうことも大切です。代表的な家族会は次の通りです。
- アルコール:Al-Anon(アラノン)、断酒会家族会
- 薬物:やっかれん(全国薬物依存症者家族会連合会)
- ギャンブル:Gam-Anon(ギャマノン)
相談先については、「まずは精神保健福祉センターへ行ってください。そこですべての道がつながります」と、医師としてお伝えしています。
病院に行くと無理やり入院させられると不安に思う方も多いですか?
松本先生:私たちのセンターでは、依存症の治療は外来(通院)を基本としています。入院をいきなり強制することはありません。依存症の方が最も再使用(スリップ)しやすいのは、入院や刑務所から出てきた直後です。物理的にお酒を飲めない環境にいれば誰も飲めないのは当然ですが、それでは根本的な解決になりません。
大切なのは、その気になればいくらでも手に入ってしまう現実の環境の中で、どうすれば使わずにいられるかを身につけていくことです。そのためには、通院しながら日常生活の中で実践し、失敗したら「次はどうするか」を医師と一緒に考えていくプロセスが必要なのです。
治療中に意識していることはありますか?
松本先生:私たちは患者さんに、「この治療をやらないなら診ません」といった突き放すような言い方は絶対にしません。依存症治療で最も避けるべきなのは、本人が嫌になって治療や通院が途切れてしまうことです。また、医師として入院してほしいと思うケースもありますが、患者さんと話し合い、「これなら続けられる」というものから治療をスタートします。
- どれだったらできますか?
- 通院の回数を増やすことはできますか?
もし通院中に再使用したら、その時はじめて「今の治療の強さでは少し足りないかもしれませんね」と相談し、入院や民間リハビリ施設の利用を検討していきます。本人の納得感を大切にしながら、段階的に治療の強度を調整していくのが、私たちの基本的なスタンスです。
依存症に苦しんでいるご本人やそのご家族へ向けて、先生から最も伝えたいメッセージをお願いします。
松本先生:僕は、諦めなければ、依存症は必ず回復する病気だと信じています。実際、自分の関わった違法薬物の患者さんたちには、この3つだけは守ってほしいと伝えています。
- 死なないこと
- 逮捕されないこと
- どんなに良くならなくても、諦めないこと
この3つさえ守れていれば、少なくとも今より悪い方向に行くことは防げますし、回復へのチャンスは必ず残されています。
回復の絶対条件は、ひとりで抱え込まないことと、本人とその家族が別々のサポーターを持つことです。次に飲んだら離婚といった状況では、家族の前で「また飲んでしまった」とは正直に言えません。だからこそ、本人は医療機関へ、家族は精神保健福祉センターへ。それぞれが気を使わずに本音を吐き出せる味方を持つことが、共倒れを防ぐ鍵になります。
回復は一直線ではありません。大切なのは、ひとりにならず、諦めないこと。それさえ守れば、依存症は必ず回復へと向かっていきます。
この記事を監修した人

松本 俊彦(まつもと としひこ)医師
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部
部長
専門分野:精神科
1993年佐賀医科大学卒業。国立横浜病院精神科などを経て、2004年、国立精神・神経センター精神保健研究所司法精神医学研究部室長。2010年に同研究所自殺予防総合対策センター副センター、2015年より現職。2017年より国立精神・神経医療研究センター病院薬物依存症センターセンター長兼務。日本学術会議アディクション分科会特任連携委員、厚生労働省依存症対策全国センター共同センター長。
著書に「誰がために医師はいる―クスリとヒトの現代論(みすず書房/第70回日本エッセイスト・クラブ賞)、「世界一やさしい依存症入門」(河出書房新社)、「オーバードーズする子どもたち」(合同出版)他多数。
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