「性交渉なしでも夫婦」全摘後の愛とリンパ浮腫。原千晶さんが伝えたい「未来の守り方」

35歳、結婚目前で突きつけられた子宮がんの再発。涙ながらに当時結婚を考えていたパートナーへ別れを切り出した原千晶さんでしたが、愛する人の「生きてくれ」という言葉、そして主治医の「助けてあげる」という約束に背中を押され、子宮全摘出という大きな決断を下しました。
手術は無事に成功し、命は繋がりましたが、がんという病気は「切って終わり」ではありません。退院したその日から、後遺症への不安や、女性としての身体の変化と向き合いながら生きていく「サバイバーとしての日常」が始まります。
今記事では、原さんが今まであまり赤裸々に語ってこなかった「術後のリアル」に迫ります。結婚前から現在まで続くセックスレスの真実、術後14年を経て突然襲いかかったリンパ浮腫の恐怖、そして自身の経験と深い後悔から導き出した「HPVワクチンと検診」への答え。痛みを知る一人の女性として、すべての女性たちへ贈る「命のバトン」の物語です。
タレント・女優
原 千晶
子宮全摘後のパートナーシップ。術後の変化と向き合いながら育む、新しい夫婦のあり方
婦人科がんを経験した女性の多くが、術後に直面するのが「パートナーとの性生活」というデリケートな問題です。子宮を失ったことによる身体的な変化(痛みや出血)や、「女性として見られなくなるのでは」という精神的な喪失感に悩むサバイバーは少なくありません。
原さんもまた、過去には「男の人の期待に応えなきゃいけない」と無理をしては心身をすり減らし、深く悩んだ時期があったと言います。しかし、現在の夫との間には、そうした一般的な夫婦の概念を超越した、揺るぎない絆が存在していました。お二人ならではの愛の形について伺います。
術後から続くセックスレスの真実。痛みとトラウマを超えて
私たちの場合はこういう結果になりましたが、実際は多くの患者さんは治療後もこれまでと変わりなく性交渉にチャレンジしています。そして、それはお互いの努力や工夫次第で可能だと思っています。
【データ解説】婦人科がん術後の性機能障害と心のケア
子宮や卵巣の摘出手術は命を救う一方で、術後の性生活に深い悩みを残すことが少なくありません。
国内外の調査では、婦人科がん治療を受けた女性の約50〜70%が、性交痛や潤い不足などの性機能障害を経験しているというデータがあります。その原因は、卵巣摘出による女性ホルモンの急減(萎縮や乾燥)や、手術による物理的な変化だけではありません。「女性としての自信を失った」「また痛むのではないか」という心理的な恐怖や喪失感も大きく影響しています。
また、命が助かったのだから贅沢な悩みだと一人で抱え込み、パートナーとの関係にひそかに苦しむ患者さんは後を絶ちません。大切なのは、痛みを我慢することではなく、不安を率直に伝え合うことです。挿入にとらわれず、スキンシップを含めたパートナーとの新しい関係性に時間をかけて再構築していく心のケアが求められています。

婦人科医師
針金 永佳 先生
Doctor's Comment
針金先生からのコメント
がん治療の進歩により、婦人科がん治療後の生存率は今後さらに向上すると期待されます。これは大変喜ばしいことではありますが、その一方で、治療後の生活の質をどのように維持し、より良くしていくかが重要な課題となります。
治療に伴う合併症は避けられない場合もありますが、決して諦める必要はありません。がんや合併症と向き合い、適切な対処法を学びながら、ご自身のこれからの人生をどのように築いていくかを考えることが、とても大切になります。
一生付き合う後遺症。「リンパ浮腫」という終わらない戦い
がんの手術が無事に終わり、命が助かったとしても、そこが必ずしもゴールではありません。広範囲にわたるリンパ節の切除を経験したサバイバーの多くが、術後に「リンパ浮腫」という新たな後遺症のリスクを抱えながら生きていくことになります。原さんもまた、がんを克服したずっと後に、この終わらない戦いへと直面することになりました。
術後14年目に突然の発症。むくみとの果てしない共存
結構工夫して動くようにしています。
- 1時間以上は絶対に同じ姿勢でいない
- 座っていても少し立って家の中をぐるぐる歩く
先生からも言われていますが、過度なダイエットはしなくても、食べ過ぎや飲み過ぎに注意して体重管理をすることもすごく大事です。これからはもう一生向き合っていくしかないと思っていますが、できることをやりながら付き合っています。
【医療解説】なぜ足がむくむ?リンパ浮腫のメカニズムと予防
ヒトの体には、余分な水分や老廃物を回収して血管に戻すための「リンパ管」が張り巡らされており、その途中には異物をせき止めて処理を行う「リンパ節」があります。 子宮頸がんなどの婦人科がんでは、リンパ管を通じて転移しやすいため、子宮だけでなく転移が起こりやすい周囲のリンパ節を摘出したり(リンパ節郭清)、放射線治療を行うことがあります。これらの治療によってリンパの流れが妨げられると、リンパ液が滞り、リンパ浮腫が生じることがあります。

リンパ浮腫は、術後すぐに発症するとは限らず、原さんのように10年以上経ってから突然発症することも珍しくありません。一度発症すると完治が難しく、重怠さなどの症状が続いたり、免疫機能が低下しているために皮膚感染が生じやすくなります。
予防と悪化を防ぐための日常のケアが大切です。
- スキンケア(感染予防):毎日保湿を行い、皮膚のバリア機能を保ち、傷に注意する。
- 体重管理:肥満はリンパ液の流れをさらに悪化させるため、適正体重を維持する。
- 衣類の工夫:きつい下着や靴下など、体を締め付ける衣類を避ける。
- 圧迫療法と排液:医師の指導のもと、医療用の弾性ストッキングを着用したり、専門家によるリンパドレナージ(医療用マッサージ)を受けたりして滞りを解消する。
婦人科医師
針金 永佳 先生
Doctor's Comment
針金先生からのコメント
がん治療に伴う合併症については、手術前は治療そのものに精一杯で、十分に注意を払えない方が多くいらっしゃいます。また、合併症が起きても"仕方がないもの"と我慢してしまう方も少なくありません。
なかでもリンパ浮腫は、発症する可能性があることを知り、日常生活で気をつけるべき点や、万一発症した際の適切な対処法を理解しておくことが大切です。こうした知識を事前に持っているだけでも、不安を軽減し、日常生活の質を保つことにつながります。
未来を守るために。HPVワクチンと検診の正解
がんと闘い、後遺症と向き合いながら生きてきた原さん。現在、子宮頸がんはHPVワクチンと定期検診によって、その多くを防げる時代になりました。しかし、日本においてはワクチンの副反応に関する報道等により、積極的勧奨が差し控えられた時代が存在します。自身はワクチン承認前にがんを患った原さんが、さまざまな葛藤や議論を見つめてきた末にたどり着いた「答え」とは何なのでしょうか。
ワクチンの空白世代を経て。原千晶が「もし娘がいたら」と考える答え
【最新事情】HPVワクチン(9価)とキャッチアップ接種
子宮頸がんの最大の原因であるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を防ぐのが、HPVワクチンです。現在、主流となっている9価ワクチン(シルガード9)は、子宮頸がんの原因となるウイルスの型のうち、約80〜90%をカバーできる非常に予防効果の高いワクチンです。
日本では過去にワクチンの積極的勧奨が控えられていた時期があり、接種の機会を逃してしまった若い女性が多くいます。そうした方々を対象に実施されていた公費(無料)の「キャッチアップ接種」は、2026年3月末で終了しました。
現在では女性だけでなく男性も接種が可能となっており、男女ともに予防の重要性が高まっています。なお、公費接種の対象外となる場合でも、自費で接種を受けることは可能です。接種の適応や推奨年齢については、個々の状況に応じて医師と相談することが大切です。
(※現在、小学6年生〜高校1年生相当の女性は、引き続き公費での定期接種の対象です。)
婦人科医師
針金 永佳 先生
Doctor's Comment
針金先生からのコメント
子宮頸がんの原因のほとんどが、HPVの持続感染ですが、HPVは性交経験を有する人の大半が生涯一度は感染します。
しかしHPVワクチンを接種することにより、従来のワクチンでは80%、9価のワクチンでは90%以上で感染を予防することができます。
HPVワクチンには、ウイルスを排除する効果はないため、性交渉開始前のワクチン接種が重要です。
小学校6年から15歳未満までに9価ワクチンの1回目を接種した場合、2回(15歳以上は3回)で完了できますので、計画的な接種を推奨します。
【内診台が怖いあなたへ】恐怖心を減らす具体的なハック

今すぐできる「自分の守り方」
人は決して一人で生きているわけではありません。そのことに立ち戻って、まずは「自分で自分の体を整える」という行動を起こしてください。それが結果として、あなたの大切な人を守ることに繋がります。どうか、私がなれなかった「お母さん」に、これから若い女性たちが望むのであれば、どんどんなってほしいと心から願っています。ご自身の未来を、ご自身の手で守り抜いてください。

がんは「切って終わり」じゃない。原千晶が語る術後のリアルと、HPVワクチンの現在地
「忙しいから」「怖いから」「若いから大丈夫」かつての原さんと同じように、検診を後回しにして理由をつけてはいないでしょうか。
がんは「切って終わり」ではありません。子宮を失うという事実や、一生続く後遺症の影は、命が助かった後の長い人生にも付いて回ります。原さんが涙ながらに繋いでくれたこの「命のバトン」を受け取り、どうか自分の体と向き合ってください。そのたった数分の行動が、あなたと、あなたを愛する人たちの未来を確実に守る第一歩になります。
【原千晶さんインタビュー記事一覧】
本サイトでは、原千晶さんの闘病から現在に至るまでの軌跡を、テーマ別の全3本のインタビュー記事でお届けしています。痛みを知る彼女だからこそ語れる「自分と未来の守り方」を、ぜひ他の記事からも受け取ってください。
▼ 第1弾:30歳での発覚。「子宮を取るだけで済む」警告を無視した代償
「痛くないから大丈夫」「一度手術したから平気」
無知と過信から検診をサボり、自分の体を守るチャンスを自ら捨ててしまった30歳当時の後悔と、失ってから気づく「当たり前」の尊さに迫ります。
▼ 第2弾:35歳での再発。結婚目前での壮絶な決断
35歳での再発発覚、診察室に響いた新しい主治医からの怒号、そして愛するパートナーとの別れを決意した「子宮全摘出」の瞬間について、涙ながらに語られた真実に迫ります。
よつばの会
30代で2度の子宮がんを経験したタレントの原千晶が37歳の時に立ち上げた婦人科がん患者会「よつばの会」。
参加資格は乳がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん等、女性特有のがん経験者です。
年齢も背景も異なる女性がそれぞれの経験を気兼ねなく話したり、がん経験者同士の交流や病院・治療についての情報共有を行う場として15年間続く会です。
関連サイト
よつばの会
https://www.yotsuba-kai.com/
この記事を監修した人
原 千晶(はら ちあき)
タレント・女優
1974年生まれ。北海道出身。1994年クラリオンガールに選出され、その後タレント・女優としてドラマや映画で活躍。
30歳の時に子宮頸がんを患い、円錐切除術を受ける。その後、35歳の時に子宮体がんが再発し、子宮全摘出手術を受ける。
現在は、自身の経験を活かし、婦人科がん患者を支援する「よつばの会」を主催。
また、一般社団法人「日本キャンサーアピアランスケア協会」の理事をつとめている。
全国での講演活動や、がん検診の啓発活動に尽力している。
この記事を監修した人

針金 永佳 (はりがね えいか) 医師
医学博士
専門分野:婦人科
東京ミッドタウンクリニックに勤務。日本医科大学医学部卒業。日本産科婦人科学会専門医。周産期新生児医学会周産期専門医。女性医学学会女性ヘルスケア専門医。新生児蘇生法「専門」コース修了。由利組合総合病院産婦人科、日本医科大学武蔵小杉病院 女性診療科・産科を経て現在に至る。
東京ミッドタウンクリニック:https://www.tokyomidtown-mc.jp/
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