「理想的な睡眠」とは?良質な眠りが必要な理由と、眠りの質の高め方
健康な心と体を作るには、バランスのとれた栄養のある食事と適度な運動、そして十分な睡眠が欠かせません。中でも重要なのが、覚醒時に働き続けた体の機能をリセットし、メンテナンスするための時間である「睡眠」です。睡眠の質と量が低下すると、体のコンディションを整える力が弱まり、食事や運動の効果も十分に得られなくなってしまいます。
今回は、東京ミッドタウンクリニックの特別診察室長を務める内科医師・渡邉美和子先生に、睡眠の重要性とその質の高め方について伺いました。
睡眠は、覚醒時に働き続けた心身を解放し、リセットする時間
――心身の健康を維持する上で、睡眠はどのような役割を果たしているのでしょうか。
心身をベストな状態に保つために欠かせないのが、「食事」「運動」、そして「睡眠」です。特に睡眠は、人間が起きているときに使っているさまざまな機能をリセットし、食事や運動の効果をより高める役割を担っています。
逆にいえば、どれだけ質の良い食事をとり、たくさん体を動かしていたとしても、睡眠が疎かになれば、せっかくの努力が無駄になりかねないということですね。社会の24時間化が進み、睡眠時間を削って仕事をしたり、趣味を楽しんだりする人が増えていますが、睡眠は健康管理の基本です。今一度、その重要性に対する意識を高め、体が本来持っている修復機能を十分に活かしていただきたいと思います。
――いわば、睡眠はメンテナンスの時間なのですね。
人が覚醒しているとき、話していれば頭が働き、歩けば筋肉が伸び縮みして、食事をすれば消化機能が働きます。何気ない動きひとつとっても、ものすごい情報量を猛烈なスピードで処理しているので、体にも脳にもかなりの負担がかかっているんですよ。
睡眠は、そういったすべてから心身を解放し、日中に酷使した部分を修復する時間。この時間が少ないと、体が十分に回復しないまま再び活動することになるので、免疫力が低下して病気にかかりやすくなったり、血管の老化が進みやすくなる可能性についても考えなければなりません。心に与える影響も大きく、睡眠不足が長引くと深刻な精神疾患やうつ病を引き起こす可能性もあります。
シンデレラタイムを意識して、「最低でも5時間」
――先程、先生がおっしゃったように、「睡眠時間を削って活動してしまう」という人は多いと思います。守るべきラインがあれば教えてください。
最適な睡眠時間については、さまざまな研究結果があり、7時間とも、7.5時間ともいわれています。中には、短時間睡眠でも日常生活に支障がない「ショートスリーパー」と呼ばれる人たちもいますから、一概にはいえません。
人によって適正な睡眠時間は異なりますが「少なくとも5時間」が一つの目安です。体内のリセットに最低限必要な時間だからです。私はいつも、「忙しくてどうしても睡眠時間が短くなってしまう」という方には、なんとか工夫して5時間は確保してくださいとお話ししています。5時間は決して十分ではありませんが、体内の老廃物を排出するために最低限必要な時間です。
――家事に仕事に忙しいILACY(アイラシイ)世代も、5時間なら確保できそうですね。
注意していただきたいのは、「とにかく5時間眠ればいい」というのではなくて、「その5時間をいつとるか」ということがとても大切だということ。同じ5時間でも、夜中の3時から8時まで寝ている人と、12時から5時まで寝ている人とでは、心身への影響がまったく違うことを実感しています。
普段、診察をしていても、昼夜逆転の生活をしている人をやせさせたり、数値を改善させたりするのはとても難しいのです。本来、人間に備わっている体内時計は、太陽の光を浴びることで新しいリズムを刻み始め、太陽が沈む夜になると眠くなってリセットされるようにできています。太陽のリズムは常に一定で、崩れることはありませんよね。人間も、それに合わせてリズムをとることが自然であり、最善なのではないでしょうか。ぜひ、シンデレラを目指して、12時にはベッドに入るようにしてください。
――「平日は寝る時間が取れないから、休みの日にまとめて寝る」という話もよく聞きますが、いわゆる「寝だめ」は有効なのでしょうか。
基本的には「寝だめで睡眠の負債を解消することはできない」といわれていますが、私個人としては、いつも5時間しか寝ていない人が、休日に2時間程度長めに寝るのはいいと思っています。
ただ、寝過ぎも体に良くないので、毎日7時間寝ている人が休日に2時間多く寝るのはちょっと長い感じがしますね。ある程度までは臨機応変でいいと思いますが、やはりリズムが大事なので、休日だからといってダラダラ寝てしまうのは避けましょう。
睡眠時間の確保だけでなく、睡眠の効率と質を追求することが大切
――「寝ても寝ても眠い」「寝ても疲れがとれない」という場合、どこに問題があるのでしょう。
「なんとなくうまく眠れていないな」というときは、睡眠の質に問題があるかもしれません。効率的に質の良い睡眠をとる努力をしましょう。
まず、消化器官を含めて体を完全に休めるために、ベッドに入る3時間前までには夕食を済ませ、以降は水以外の飲食は避けましょう。寝酒も避けたほうがいいですね。アルコールには、心身を一時的にリラックスさせる効果がありますが、実はアルコールは覚醒に働くため、夜中に目が覚めてしまうなど熟眠障害に繋がります。一日の最後に飲むお酒が楽しみという方は、無理して禁酒したり量を減らしたりするとストレスが溜まりますから、「夕食まで飲んで、後はきっちりやめる」というように時間を決めることをおすすめします。「ダラダラ飲む習慣から脱することで、結局楽に飲む量を減らせた」と報告をくださる患者さんは多いんですよ。
また、昼間寝過ぎて夜更かしをしていないかなど、生活習慣を見直して改善を図るのも有効です。
――ほかに、睡眠の質を高めるコツがあれば教えてください。
スマホやPCなどから発せられるブルーライトは、睡眠を促すメラトニンというホルモンの分泌を抑制して、体内時計を狂わせてしまうので、最低でも眠りにつく1時間前からは見ないようにしましょう。テレビも同様に光刺激ですから、タイマーではなく、しっかり消してから寝たほうがいいですね。
ぬるめのお風呂にゆっくり入って副交感神経を高める、好きな香りのアロマを焚くといったリラックス法を試してみるのもいいと思います。マットレスの硬さや枕の高さなども、自分にとって一番心地いいと思える物を探しておくと、気持ち良く眠りにつけるでしょう。
そして、なんといっても大切なのは、良質な睡眠を継続的にとることが、健康や美容にとってとても重要であるという意識を高めること。意識をすれば、自然と一日の過ごし方に対する自覚が芽生え、理想的な睡眠に近付いていくはずですよ。
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この記事を監修した人
渡邉 美和子 (わたなべ みわこ) 医師
専門分野:内科・抗加齢医学
1994年 北里大学医学部卒業
慶應義塾大学内科学教室 入局。永寿総合病院勤務などを経て、2003年医療法人社団桃蹊会理事長、2007年マリーシアガーデンクリニック院長を経て、2010年より東京ミッドタウンクリニックへ。2011年東京ミッドタウンクリニック「特別診察室長」に就任、2020年東京ミッドタウンクリニック「外来診療部長」に就任、2022年には東京ミッドタウンクリニック「副院長」に就任。臨床の場で会員制医療における健康危機管理や医療相談に携わるほか、日本抗加齢医学会、日本内分泌学会をはじめ医学学会でのお弁当監修や企業との健康関連事業に取り組むなど、独自の食指導「安心で美味しい食の医療プロジェクト」にも力を入れている。