更年期障害とうつ病の違い――見極めのポイントは精神症状のあらわれ方

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「気分が落ち込んで物事に対する興味が持てない」「理由もなく不安になる」――更年期に入ってホルモンのバランスが崩れると、ホットフラッシュや倦怠感といった身体的症状とともに、さまざまな精神症状があらわれ、日常生活に支障をきたす「更年期障害」になることがあります。
中でも、抑うつ的な気分や不安感、焦燥感などの精神的な症状が目立つ更年期障害は、精神神経疾患である「うつ病」とよく似ているため、きちんと識別して治療することが大切です。

今回は、長期に及ぶ体調不良と精神症状で受診した方の症例を基に、「更年期障害による精神症状」と「うつ病」の見極め方、およびその治療法について、浜松町ハマサイトクリニックの医師・吉形玲美先生に教えていただきました。

【Case9】更年期障害?うつ病?適切な診断を受けることが楽に過ごす近道

W・Hさん(初診時54歳)の場合

【おもな状況ヒアリング】

■10年以上にわたって、さまざまな精神的・身体的症状に悩み受診
42歳くらいから、毎年違う身体的・精神的症状に悩まされてきました。50代に入ってだいぶ良くなったような気がするものの、「なんとなく気持ちが悪い」「身の置き所がない」といった感覚は以前から続いており、理由もなく涙が出て家事が手につかないこともあります。風邪を引きやすく下痢もしやすいなど、体調も安定しません。市販薬も試しましたがあまり効果を感じませんでした。

■抑うつ的な気分と体調不良を改善したい
抑うつ的な気分を改善して気持ちのアップダウンをなくし、体調も安定させたいと思っていますが、「うつ病」と言われることには抵抗があります。

年齢と発症時期、症状のあらわれ方が見極めのポイント

――W・Hさんのケースは、「更年期障害による精神症状」と「うつ病」のどちらなのでしょうか。

見極めが難しいところですが、受診時には閉経から5年が経過しているのを見ると、42歳の時点ですでにプレ更年期の状態で、「なんとなく気持ちが悪い」「身の置き所がない」といった感覚は、更年期による精神症状の始まりだったと考えていいと思います。うつ病と診断されることへの抵抗感などから、すっきりしないまま時間が経ってしまったのでしょう。

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――更年期障害の範疇に入るかどうかは、どのように見極めるのでしょう。

まずは診察時に必ず伺う「年齢」と「症状が出た時期」、「更年期障害とうつ病の質問票」を基にスクリーニングします。この方は、質問票の結果が比較的軽度だったので、更年期障害として婦人科で診ていいだろうという判断をしました。

あとは、身体的な症状の有無も重要ですね。更年期障害の質問票では体のことと心のことをおよそ半々の割合で聞いていますが、身体的な自覚症状が一切なく精神的な訴えばかりなら、うつ病の可能性が高いと考えます。

――過去にうつ病を発症したことがある、という場合はいかがですか。

例えば20代のころにうつ病と診断されて精神科に通院し、抗うつ剤を飲んでいたという背景があると、婦人科か精神科かで迷うところですね。うつ病の既往歴があると、更年期の体調不良などが引き金になって再発することがあるからです。

精神科の受診歴があって、寛解(かんかい:症状がほぼ消失した状態)後は通院していないという方は多いと思いますが、できるだけ定期的に診察を受けてつながりを保っておくと、更年期に入ったときに相談しやすいのではないでしょうか。精神科の先生が早めに気付いてくれれば、状態を悪化させないうちに治療を始めることもできます。

婦人科側でも、先程お話ししたうつ病の質問表の内容を拝見して、「死にたい」という自殺企図や「自分はいないほうがいい」という自己肯定感の欠如が著しい場合は、精神科をご紹介することもあります。

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更年期障害もうつ病も、「受け入れる」ことで付き合えるようになる

――W・Hさんは、うつ病への抵抗感もあって、受診を躊躇していたようですね。

症状に悩み始めたのが42歳ですから、10年以上もつらい思いをしてきたことになりますね。W・Hさんのように、「うつ病だと診断されたら認めざるをえなくなる」という心理的な抵抗感から、受診をためらう方は少なくありません。

ただ、更年期障害もうつ病も、受け入れることさえできれば上手に付き合っていける病気なんですよ。正しい診断を早く受けて適切な治療を受ければ、かなり楽に過ごせるということは知っていただきたいですね。

――W・Hさんも、受診後は自分の状態を受け入れて、治療をスタートすることができたのでしょうか。

結果と治療法をしっかりご説明した上で、抗うつ作用のあるお薬のうち、最初の段階によく使われる「SSRI(ジェイゾロフト)」というお薬の服用から始めることになりました。元気になる成分をちゃんと脳に送るイメージのお薬ですね。

結果として、開始から2週間を経過したころから少しずつ調子が良くなってきました。このほか、個々の状況に応じて抗不安剤、精神安定剤、睡眠導入剤くらいまでは婦人科で処方することがあります。ただ、1種類の抗うつ剤であまり改善が見られないときは、より専門的な処方や治療ができる精神科をご紹介することが多いですね。

――HRT(女性ホルモン補充療法)も治療の選択肢のひとつになりますか。

患者さん自身が落ち込みや不安感を訴えていても、質問票の結果を見るとうつのスコアがそれほど高くなかったり、身体的な症状が幅広く確認できたりする場合は、HRTを実施することによって全体が底上げされて抑うつ状態が改善することがあります。抗うつ剤は使わず、HRTだけで済む方も少なくありません。

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腸内環境を整えることが、ポジティブな感情を保つ第一歩

――更年期障害なのかうつ病なのか、セルフチェックする方法があれば教えてください。

私たちが使っている「PHQ9」というスクリーニングツールがあります。「気分が落ち込む、憂うつになる、または絶望的な気分になる」といった精神的な項目9問について、1週間でどのくらいの頻度で悩んでいるかを答えるものです。

それぞれの項目に対して「全くない(0点)」「数日(1点)」「半分以上(2点)」「ほとんど毎日(3点)」の4つの選択肢が設けられており、9問の合計値を算出します。5~9点は軽度、10~14点は中等度、15~19点は中等度~重度、20~27点は重度という評価なので、受診の目安にしてください。

■PHQ9
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「PRIME-MD™ PHQ-9日本語版」(こころとからだの質問票):
禁無断転載・複写・複製・電子化・転送
Copyright © 2017 Pfizer Japan Inc.
Muramatsu K et al. General Hospital Psychiatry. 52: 64-69, 2018.
新潟青陵大学大学院臨床心理学研究, 第7号,p35-39, 2014

――更年期障害の悪化を防ぐために、アドバイスをいただけますか。

「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンという物質は、そのほとんどが腸内で作られています。つまり、腸内環境が良好であれば、幸せホルモンがたくさん生まれて、ポジティブな感情を保てるということですね。

まずは食生活を見直して、腸内環境を整える食品(根菜、海藻、キノコなど)を積極的にとることをおすすめします。さらに、女性ホルモンと似た働きをする大豆イソフラボンは、女性の健康と美には欠かせない成分ですので、大豆製品を食べるのもいいですね。

とくに、大豆イソフラボンが体内で「エクオール」という女性ホルモンに似た働きをする物質に変換されることで、更年期症状が緩和されるという研究結果が出ていますので、食事だけでは足りないと感じた場合は、エクオール含有のサプリメントを取り入れても良いと思います。


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SUPERVISERこの記事を監修した人

吉形先生

PROFILE

吉形 玲美 (よしかたれみ) 医師

医学博士/日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
専門分野:婦人科

1997年東京女子医科大学医学部卒業
臨床の現場で婦人科腫瘍手術をはじめ、産婦人科一般診療を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究に携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。

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※掲載している情報は、記事公開時点のものです。

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