フェムゾーンの痛みの原因は?更年期以降の悩みを医師が解説

更年期世代の女性の多くが、フェムゾーンに関する何らかの悩みを抱えているといいます。しかし、いまだ性にまつわる話題をタブー視する風潮があることから、そういったことをなかなか人に相談できずにいることが多いこともまた事実。

そこで、日常生活の質を低下させるフェムゾーンの3大悩み、「痛み」「かゆみ」「におい」の原因と対策、予防法について、浜松町ハマサイトクリニックの医師・吉形玲美先生に教えていただきます。

今回は、更年期世代から増え始め、老年期以降は多くの人が感じているという「痛み」についてご紹介しましょう。

フェムゾーンのかゆみがつらい!更年期以降の悩みを医師が解説

痛みの理由の多くは「萎縮性腟炎」

――まず、フェムゾーンの「痛み」の原因を教えてください。

更年期以降の女性にとって、フェムゾーンの痛みを引き起こす原因の多くは「萎縮性腟炎」ですね。

肌は、表皮の一番奥の層で作られた新しい皮膚細胞が上へ押し上げられることで、古い皮膚が垢や角質となって剥がれ落ちて新しい細胞と入れ替わる、「ターンオーバー」というサイクルを繰り返しています。それと同じように、健康な腟粘膜も積み上がった細胞がはがれ落ちて、また積み上がるという新陳代謝が行われています。

この働きの中で重要な役割を担っているのが、腟粘膜の上皮細胞に含まれているグリコーゲン。グリコーゲンは、粘膜といっしょにはがれ落ちてブドウ糖に変わり、さらに腟の常在菌によって乳酸に変わり、腟の中のpH(ペーハー)を酸性に保って細菌の侵入・増殖を防いでいます。

ところが、年齢とともに女性ホルモンの分泌が減ることによって、腟粘膜の萎縮や腟の乾燥が起こる上、グリコーゲンも減るため、腟を守る物質がなくなってしまうんです。こうして腟内を酸性に保てなくなって自浄作用が低下し、炎症が起きた状態を萎縮性腟炎といいます。そうなると、腟の痛みや違和感につながります

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――具体的にどのような痛みを感じるのでしょう。

ヒリヒリするという方もいれば、なんともいえない違和感があるという方もいます。

腟内の抵抗力が落ちるので、お尻の周りに常在している大腸菌や雑菌などが侵入して細菌性腟炎になり、それが原因で痛みを感じることも。萎縮は腟だけでなく外陰部や尿道にも起こるので、粘膜がひきつれて尿道口の位置が引き込まれたり、尿が腟に入り込みやすくなったりして痛みを引き起こすこともあります。

――萎縮性腟炎がすべてのベースにあるということですね。

女性ホルモンの分泌が減ることによって起こる痛みとしてはそうですね。それ以外では、洗いすぎに注意が必要です。萎縮性腟炎がそれほど進んでいなくても、洗いすぎると上皮細胞を無理にはがすことになり、グリコーゲンが失われてしまうからです。

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洗いすぎを防ぐには、pH値を保つケア用品を使うこと

――フェムゾーンの痛みに有効な対策を教えてください。

痛みの原因が萎縮性腟炎の場合は、女性ホルモンのエストロゲンが含まれている腟坐薬を挿入する局所療法、あるいはエストロゲンの全身投与であるホルモン補充療法(HRT)が根本的な治療法ですね。

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ホルモンに頼らない場合は、レーザー治療という新しい方法もあります。これは、腟内に専用のレーザーを照射して、粘膜を活性化させる治療法。短期間で高い効果が得られるので、フェムゾーンの痛みや違和感によるストレスが激しい方にはおすすめしています。

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あとは、フェムゾーン専用のケア用品を使って清潔に保ち、保湿をしっかりおこなうこと。普通のボディソープはアルカリ性から中性で洗浄力が強いので、清潔にしているつもりが実は洗いすぎて腟のバリアをはがしていた、となりかねません。粘膜の状態を良くしてくれる洗浄薬を選んで洗い、潤いを逃さないようにフェムゾーン専用の保湿ジェルやクリームを塗りましょう

――フェムゾーン専用のケア用品もさまざまありますが、選ぶときはどういったことをチェックすればいいですか?

フェムゾーンのケアにおいては、
・腟を良い状態に保つ常在菌を洗い流さないこと
・必要な潤いを残して腟内を酸性の環境に保つこと

がポイントです。

ソープを選ぶ場合は、まずpH値(5.0~7.5)に調整された物を選ぶといいでしょう。一般的なボティソープのpH値が9.0~11.0に対して、腟内は外界から子宮に雑菌が入ってこないよう、pH3.8~4.5の弱酸性で保たれています。

そのため、ボディ用に作られたアルカリ性のソープでは洗いすぎになり、腟を守る常在菌まで奪ってしまいます。かといって腟と同じpH値だと、汚れがきれいに落ちない可能性も。

フェムゾーンの肌環境にこだわったケア用品であればpH値が書いてあるはずですから、パッケージを確認してみてください。

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あとは、乳酸菌が配合されている物もいいですね。女性ホルモンの減少に伴って減っていくグリコーゲンの働きを、外から補うイメージです。

――痛みが出てからセルフケアをしても、腟の状態は改善しますか。

腟は新陳代謝を繰り返していますから、適切なケアをすれば改善します。ただ、痛みを我慢して慢性炎症のようになってしまうと、回復にかなり時間がかかり、婦人科で治療しないと改善しないこともありますね。本来は痛みを感じる前から行っていただきたいですが、少なくとも腟に違和感が出てきたら、できるだけ早くセルフケアを始めてください

フェムゾーンを「見て、知っておく」ことが大切

――フェムゾーンの痛みを予防するには、どんなことを意識するといいですか?

そうですね。先に挙げました毎日のフェムゾーンケアに加えて、女性ホルモンのエストロゲンと同じような働きをする、エクオール含有のサプリメントを摂取するのは有効な予防法のひとつです。

あとは、フェムゾーンの正常な状態を知っておくこと。

例えば、萎縮性腟炎の方の腟壁は、白くなったり充血したりするのですが、ご自身で見てわかる小陰唇や大陰唇にも色の変化が現れることがあります。色が抜けたように白くなったり、ただれたような赤い色になっていたりしたら、内部でも変化が起きているサインだと思ってください。

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健康なときのフェムゾーンの状態を知っていれば、こうした変化にいち早く気付いて、痛みが出る前に対処することができますよね。

お風呂でフェムゾーンを洗うときや、お風呂上がりにクリームを塗るときなどに鏡で見る習慣をつけておくと、「なんとなく色がおかしい」「肌が荒れている」といった変化や、汚れがつきやすい部分、洗いにくい部分などがわかるので、ケアもしやすくなると思います。

――フェムゾーンをきちんと見たことがない人は多そうです。

小さい頃から性に関する話題をタブー視する環境の中で育ってきた日本人女性は、自分のフェムゾーンをまともに見たことがない人が多いんです。フェムゾーンの痛みがあるのに誰にも相談できず、我慢して悪化させてしまう方がいるのも、「人に言うのは恥ずかしい」という心理的な要因によるところが大きいのでしょう。

フェムゾーンも肌の一部です。髪や顔を整えるのと同じ身だしなみの一部として、フェムゾーンのケアを心掛けてください。


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SUPERVISERこの記事を監修した人

吉形先生

PROFILE

吉形 玲美 (よしかたれみ) 医師

医学博士/日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
専門分野:婦人科

1997年東京女子医科大学医学部卒業
産婦人科臨床医として医療の最前線に立ち、婦人科腫瘍手術等を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。
2022年7月「40代から始めよう!閉経マネジメント」(講談社刊)を上梓。
2023年9月より「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」副理事長に就任。

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