我慢できない尿意、頻尿で外出するのも不安...過活動膀胱かも?

何らかの理由で膀胱が過敏になり、何度もトイレに行きたくなったり、急に我慢できないほどの尿意が起きて失禁してしまったりする「過活動膀胱」。脳から膀胱への指令系統にトラブルが起きた場合や、更年期による女性ホルモン不足で膀胱が過敏になった場合に起きやすい症状です。

今回は、頻尿に悩まされている患者さんの症例を見ながら、浜松町ハマサイトクリニックの医師・吉形玲美先生に排尿トラブルへの対処法を教えていただきました。

【case12】過活動膀胱――不安感から日常生活に影響も

T・Kさん(初診時52歳)の場合

【おもな状況ヒアリング】

■頻尿気味で、ホットフラッシュもある
ここ半年ほどで急に頻尿になり、1日に10回以上トイレに行くこともあります。夜中にトイレに行きたくなって、起きてしまうことも珍しくありません。
そのほかの症状として、ホットフラッシュを感じています。

■切迫感もあり、バス旅行などが楽しめない
毎回ではありませんが、トイレに行きたいと思うとすぐに切迫感が来て、尿漏れしてしまうことがあります。
長時間トイレのない状況に置かれることが不安で、好きだったバス旅行も楽しめなくなりました。日常生活に支障が出始めているため、受診しました。

40歳以上の7人に1人が悩まされる!?「排尿トラブル」

――過活動膀胱には、具体的にどのような症状があるのでしょう。

正常な状態の膀胱は、ある程度尿が溜まった段階で尿意を感じ、トイレに行って排尿するというように、脳の指令を受けて活動します。しかし、過活動膀胱になると、自分の意思とは無関係に膀胱が収縮するため、頻繁に尿意を感じるようになります

急に我慢できない尿意が生じて、トイレに行かずにはいられなくなるので、「尿を漏らしてしまうかもしれない」という不安から、長時間の移動が困難になったり、仕事に支障をきたすなど、日常生活にも大きく影響します。

さらに、過活動膀胱が進行すると、トイレに行って排尿するまで尿意を我慢できず、尿漏れしてしまう切迫性尿失禁が起こります

――加齢とも関係があるのでしょうか?

更年期になって女性ホルモンが不足することも膀胱が過敏になる原因のひとつですが、基本的には脳から膀胱への指令系統に支障をきたすことによって起きるのが過活動膀胱です。

一方、重い物を持ち上げたときやジャンプしたとき、笑ったりくしゃみをしたりしたときなどに尿が漏れる腹圧性尿失禁も、加齢によって起きやすい病気ですね。

妊娠・出産後や便秘、肥満、運動不足などで骨盤底筋群がゆるむなど、多くの女性によく見られる排尿トラブルです。

過活動膀胱は、筋肉を鍛えていてもなる可能性がある点が、腹圧性尿失禁との大きな違いですね。ただし、骨盤底筋群の衰えは過活動膀胱の悪化につながりますから、鍛えておくことが大切です。

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過活動膀胱は適切な服薬とトレーニングで治療できる

――T・Kさんは、頻尿を訴えて来院されたのですね。

そうですね。ホットフラッシュもあるので、更年期も影響していると思います。何らかのアクションに伴って尿漏れしているわけではなく、突然切迫した尿意を感じるという症状から、過活動膀胱ではないかということで検査をしました。

――どんな検査をするのですか?

婦人科では、問診と尿検査、内診、経腟エコーの4つです。

問診では、昼間・就寝中の尿意の回数や、「このままでは漏れてしまうかも」という切迫感の程度、我慢できずに漏らしてしまった回数などをスコア化して過活動膀胱の可能性を探る一方、他の病気の可能性を否定するために病歴や手術歴を伺います。

尿検査は、膀胱炎の可能性も確認するため、尿の中に細菌や血液が含まれていないかを調べ、内診では子宮下垂・子宮膜、膀胱、直腸の下垂がないかを診察します。エコーでは、排尿後に膀胱に残っている尿の量(残尿の程度)、腫瘍の有無などを見ます。

ただし、膀胱の画像検査などについては、泌尿器科での詳しい検査をおすすめすることもあります。

また、気になる症状のある方は、次の過活動膀胱症状問診票を参考にしてください。1週間のうち、以下の3番目の質問「急に尿がしたくなり、我慢が難しいことがありましたか」の項目が2点以上、かつ全体の合計点数が3点以上の場合に過活動膀胱の疑いがあります。

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出典:過活動膀胱診療ガイドライン[第2版]:日本排尿機能学会編集, 2015年,リッチヒルメディカル, p105 表13. ©日本排尿機能学会

――過活動膀胱と診断された後の治療法を教えてください。

過活動膀胱は、適切な服薬とトレーニングで治る病気です。T・Kさんの場合は、頻尿と更年期症状の両方に効く、よりマイルドな治療を希望されていたので、漢方薬の「加味逍遥散(カミショウヨウサン)」を処方して、様⼦を見ることにしました。

症状の程度や重症度によっては、膀胱の過剰な収縮を抑制して症状を改善してくれる過活動膀胱治療薬を最初に処方する場合もありますし、漢方の効き具合を見て移行していく場合もあります

T・Kさんは、1ヵ月を経過したところで加味逍遥散の効果がはっきりせず、「五苓散(ごれいさん)」に変えて効果が出始めましたが、3ヵ月後には尿意切迫感が深刻化したため、過活動膀胱治療薬を処方しました。4ヵ月を経過した時点で切迫感は治まり、最終的には薬をストップすることができています。

――トレーニングとは簡単にできるのでしょうか?

尿意を感じたときに簡単にできる膀胱のトレーニング(膀胱訓練)法があります。家にいるときなど、比較的プレッシャーが少ないときに、トイレに行きたいと感じてから30~60分我慢して、意識的に排尿間隔を空けるだけです。

これを続けていくと、次第に膀胱が尿を溜められるようになり、尿意を我慢できる間隔が延びていきますよ。服薬と併せて行うことで症状の早期改善が期待できますから、ぜひやってみてください。

骨盤底筋群はすべての女性が鍛えておきたい部分

――悪化を防ぐためには、骨盤底筋群の筋トレも重要だというお話がありました。どのように行えばいいのでしょう。

骨盤底筋群は、出産や女性ホルモンの低下、加齢などでゆるみやすくなる筋肉なので、排尿トラブルを抱えているかどうかにかかわらず、すべての女性が鍛えておきたい部分。腹圧性尿失禁の治療でよく行われる骨盤底筋体操は、過活動膀胱で起きる切迫性尿失禁の改善にも有効です。

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仰向けになる、椅子に座る、テーブルに手をついて立つという異なる3つのポーズをとりながら、腟や肛門を緩めたり締めたりする動きを繰り返しましょう。外出中、電車で吊り革につかまっているときなどに行うのもいいですね。早期改善のためには、1回10分を基本として、1日数回行うのが理想的です。

■骨盤底筋群を鍛える「ケーゲル体操」

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ひざを立てて仰向けになり、おなかとお尻をキュッと引き締めて5秒ほど維持してから緩めます。

<こちらもCHECK>
尿漏れや頻尿の原因?「骨盤底筋群」の重要性と鍛え方

――排尿トラブルに悩む方に、アドバイスをお願いします。

排尿トラブルには、何らかの病気が隠れていることもあるので、まずはかかりつけの医師に相談するようにしましょう。過活動膀胱だった場合も、適切な治療をすれば状況は改善します。日常生活に影響を及ぼす前に、対処できるといいですね

なお、排尿トラブルは、メンタルが影響している場合もあります。仕事や家庭など、生活の中でストレスを感じる場面を見直し、改善を図ることも心掛けるようにしましょう。


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ハイメディック東京日本橋コース

SUPERVISERこの記事を監修した人

吉形先生

PROFILE

吉形 玲美 (よしかたれみ) 医師

医学博士/日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
専門分野:婦人科

1997年東京女子医科大学医学部卒業
産婦人科臨床医として医療の最前線に立ち、婦人科腫瘍手術等を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。
2022年7月「40代から始めよう!閉経マネジメント」(講談社刊)を上梓。
2023年9月より「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」副理事長に就任。

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