医師が答える!更年期症状に◎なホルモン補充療法(HRT)のギモン

閉経に向けて減少していく女性ホルモン(エストロゲン)を補うホルモン補充療法(HRT)は、更年期症状の治療法として知られています。つらい不調の解消が大きく期待できるものですが、日本ではHRTに対して漠然とした不安を感じている女性が多いようです。

実際にHRTを受けた人の大半が効果を実感しているものの、海外と比べてまだまだ普及率が低いHRTについて、浜松町ハマサイトクリニックの吉形玲美先生に教えていただきました。

<ホルモン補充療法(HRT)とは...>

一般的に、更年期に入る頃からゆらぎはじめ、閉経前に急激に失われる女性ホルモン(エストロゲン)を補充することで、更年期に見られるさまざまな心身の不調を改善する治療法。

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医師が答える!更年期症状にまつわるギモン

1 HRTにはどんな種類がありますか?

HRTで使用する薬には、飲み薬、貼り薬、塗り薬(ジェル剤)の3種類があります

飲み薬は服用しやすく忘れにくいのですが、肝臓で代謝されることによって中性脂肪が高くなったり、血栓症のリスクが若干上がったりすることも考えられます。そのため、かぶれなどがなければ、貼り薬が第一選択肢として提示されることが多いでしょう。皮膚トラブルがある方や、貼り薬が見えるのを避けたい方は、塗り薬もお選びいただけます。

ただし、こうした判断はあくまでも一般論。実際には、その人の生活スタイルや既往歴、ニーズなどに応じて使用する薬剤のタイプを決めることが重要です。

出血を定期的に起こすためなど、周期的にホルモン剤を使用する場合は、飲み薬でないとうまくコントロールできないこともあるので、主治医とよく相談してベストな方法を見つけてください。

なお、エストロゲンだけを投与すると子宮体がんのリスクが高まるため、子宮を摘出している方以外はプロゲステロン(黄体ホルモン)も同時に投与します。飲み薬、貼り薬ともに両方を含むタイプがありますが、塗り薬はエストロゲンの製剤しかないため、黄体ホルモンを飲み薬で摂取していただきます。

2 HRTを検討するのに適したタイミングはいつですか?

HRTが治療の選択肢として検討される目安は、2つあります。


生理時の経血量パターン(周期)が変化したとき

エストロゲンの減少によって生理時の経血量が変化したタイミングは、HRTの治療を検討する目安のひとつとなります。

夜用のナプキンが短時間でいっぱいになってしまうほどの大量出血を伴う過多月経、経血量が少なくダラダラと続く過長月経など、生理時の出血にまつわるトラブルが生活に影響を及ぼしている場合は、出血のサイクルを整えるための解決策としてHRTを提案することがあります。

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更年期症状が日常生活に支障をきたしてきたとき

出血トラブルと同じく、動悸やホットフラッシュ、めまい、イライラ、不安感といった更年期症状で日常生活に支障をきたしているようなら、HRTでの治療を検討してもいいでしょう。

もちろん、生活に支障があるか否かにかかわらず、お肌の状態を美しく維持したいなどの美容目的で、閉経をきっかけにHRTを始める人もいらっしゃいます

こうした場合、閉経から5年、10年とあいだが空いてからHRTを行うと、血栓症や血管の炎症トラブルが増加するのでおすすめできません。閉経後の早い段階から始めれば、動脈硬化のリスクが低減されるなどベネフィットが上回りますから、できれば閉経後1~2年以内には始めることをおすすめします

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3 HRTができない人もいますか?

現時点で子宮体がん、乳がんがある人、脳梗塞や心筋梗塞などの既往歴があって血栓症の治療薬を服用している人は、ホルモン治療によって悪化する可能性があるため、HRTを行うことができません。

肥満ぎみの人、喫煙など血管が詰まりやすい生活習慣がある人に対する投与は、慎重な判断が必要ですね。ちなみに、HRTを実施しているあいだの喫煙は原則NGです。

4 HRTはどのような効果が得られますか?

HRTで得られる効果は、次の3つが代表的です。


更年期症状の緩和

HRTの一番の効果は、もちろん更年期症状の緩和です。

肩こり、頭痛、腰痛、めまい、のぼせ、ほてり、発汗、不眠、つかれやすい、動悸・息切れといった、更年期に現れる身体の不調だけでなく、イライラや不安感といった精神的な症状にも有効ですよ。


美容効果

HRTは肌の水分を保ち、コラーゲンを増やします。気になるしわが改善され、皮膚にハリが出たとおっしゃる人は多いです。

髪の毛が薄くなった、抜け毛が増えた、ツヤがなくなったなど、髪に関するお悩みもHRTでの改善が期待できます


将来的な疾患リスクの低減

閉経前後に女性ホルモン(エストロゲン)が急激に失われることで、女性はさまざまな疾患のリスクが高くなります。

そこで、閉経後1~2年の早期にHRTを始めることで、動脈硬化の進行や骨量の低下を抑制することができます。腟粘膜の乾燥や萎縮も改善されるので、閉経後に起こりやすい性交痛や膀胱炎をはじめとした泌尿器トラブルの予防にもつながりますよ。

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5 HRTの効果が出るまでの期間はどれくらいですか?

発汗やほてりといった症状が、明らかに女性ホルモン(エストロゲン)の低下が原因であれば、1〜2週間で改善を自覚することが多いでしょう。そのほかの症状も、1ヵ月あればほとんどの人が何らかの効果を実感できると思います。

骨密度など体の器質的な部分や美容面は、その人の食生活、ライフスタイルなどで効果の程度や効果が出るまでの期間が異なります。

更年期症状の緩和が目的でHRTを行う場合は、症状が改善したら薬の量を減らして、数年で卒業するのが一般的です。美容など副次的な効果のために続けることもできますが、長期的なHRTは血栓症や乳がんのリスクの上昇が考慮されるため、投与の減量や、経口なら経皮に切り替えるなど、医師と相談しながら続けましょう

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6 HRTに副作用はありますか?

HRTと乳がんの関係を気にする人は多いですね。

確かに、乳がんのリスクはゼロではありませんが、実はアルコールの過剰摂取や肥満と同等か、それよりも低いといわれています。また、日本人女性は喫煙での乳がんリスクの増加にも注意が必要とされています(※)。

しかしながら、投与期間や投与方法の工夫で、より安全に、長期的にHRTが行えるようになってきました。

※乳がんのほか、卵巣がんのリスク増加との関連も示されています

とはいえ、リスクがゼロではない乳がん、また子宮頸がん・子宮体がんについては、婦人科の定期検診できちんとチェックするようにしましょう。

7 ほかの薬とHRTの薬を併用しても大丈夫ですか?

プラセンタや漢方薬、エクオール含有サプリメント、睡眠剤、精神科のお薬などは、HRTの薬と問題なく併用できます。

ただ、ステロイドが入っている薬を服用している場合は、念のため主治医に相談しましょう。また、シミ治療でよく使われるトラネキサム酸は、トランサミンといって婦人科では止血剤として使用しているため、血液が固まりやすくなる作用があり、血栓症リスクに注意が必要です。よって、HRTを始めるにあたっては皮膚科医へ相談したほうがいいですね。

HRTをはじめ、自分に合った治療法で健やかな更年期を

更年期世代の心身には、女性ホルモン(エストロゲン)の減少に伴うさまざまな影響が表れるもの。中には、骨密度や血管年齢の低下など自覚症状がないまま進行するものも少なくありません。

そのため、40代以降はそれまで以上に自分の体に対する意識を高め、検診や婦人科への受診も積極的に行うことをおすすめします。自分に合ったかかりつけ医を見つけて、いつでも相談しやすい環境を整えておくのもいいですね。

HRTのほかにも更年期症状の改善は、漢方やエクオール含有のサプリメントを飲んでみるなどいろいろありますので、医師と相談の上で自分の症状やライフスタイルに合った方法を選び、不調知らずの健やかな毎日を送りましょう。


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ハイメディック東京日本橋コース

SUPERVISERこの記事を監修した人

吉形先生

PROFILE

吉形 玲美 (よしかたれみ) 医師

医学博士/日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
専門分野:婦人科

1997年東京女子医科大学医学部卒業
産婦人科臨床医として医療の最前線に立ち、婦人科腫瘍手術等を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。
2022年7月「40代から始めよう!閉経マネジメント」(講談社刊)を上梓。
2023年9月より「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」副理事長に就任。

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レミ先生の診療日記
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