閉経前後に多い月経時(生理)の大量出血や長い月経、その原因は?(2025年更新版)

40代半ばを過ぎて閉経が近づいてくると、月経の際の出血量に変化が現れることがあります。
中でも多いのが、経血の量が多すぎて生活にも影響が出てしまう「過多月経」。短時間に夜用ナプキンでも間に合わないほどの出血があり、対処に困ったという声も聞きます。
また、出血は少量ながら月経がダラダラ長く続く「過長月経」になる場合もあり、いずれにしても生活の質を下げる不快なものです。
今回は、閉経前後に経血量が変化する理由とその対処法について、産婦人科医の吉形玲美先生に教えていただきました。
※本記事は、2021年6月1日公開版を更新したものです
2つの女性ホルモンが乱れることで出血異常に
──閉経に近づくにつれ、月経時にこれまでとは違う経血量に悩まされる人が多いと聞きました。
それまで月経時に困ることはなかったのに、急激に量が増えたり、量は少なくても2週間、3週間と長く出血が続いたりする人は少なくありません。月経周期が不規則になり、短い期間に何度も来るケースもありますね。
過多月経の場合は、長時間用のタンポンや夜用ナプキンを使っても、短時間しかもたないほどの出血量に悩む人もいるんですよ。これを放置すると重度の貧血になり、心機能や腎機能の低下、不整脈など、命に関わる疾患を引き起こす危険もあるので、これまでと違うなと思ったら、すみやかに医療機関を受診してください。
――出血量は、なぜ変化するのでしょうか?
女性ホルモンのゆらぎ・減少が原因である場合が多いですね。
そもそも女性の体は、女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)によってコントロールされています。排卵と月経のサイクルにも、この2つのホルモンが大きく関わっていることはよく知られていますよね。
月経が終わってから排卵までのあいだはエストロゲンが大量に分泌され、排卵から次の月経までのあいだはプロゲステロンが優位になって、子宮内膜を整えながら妊娠に向けた準備を整えます。
■エストロゲン、プロゲステロンの分泌周期
排卵後、妊娠が成立しなければどちらのホルモンも減り、子宮内膜が血液とともにはがれ落ちる、いわゆる月経が起こるわけですが、40代後半になるとエストロゲンを分泌する卵胞そのもののゆらぎ・減少によって、エストロゲンの分泌量に影響が出てくるんです。
同時に、プロゲステロンの分泌量も変化し始めるため、2つのホルモンのバランスが崩れて子宮内膜がうまくはがれなくなってしまいます。すると、子宮内部に滞留して厚くなりすぎた子宮内膜が一気にはがれて大量に出血する過多月経や、ダラダラと子宮内膜の排出が続く過長月経が起きるのです。
大量出血が起きたら、まずは子宮の病気の有無を調べることが大切
――出血量が多いと、病気かもしれないと不安になりそうですね。
過多月経や過長月経を女性ホルモンの影響と判断するには、子宮に病気が何もないことを最初に確認する必要があります。そのため、出血に対する違和感をきっかけに病気を疑って、医療機関にかかるのはとてもいいことですよ。
――病気による出血だとすると、どんな可能性があるのでしょう。
子宮内膜症や子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、子宮筋腫、あるいは子宮体がんなど重大な病気の兆候であることが考えられます。
健診で貧血を指摘され、子宮の検査をしたことでこれらの病気が見つかることもあるので、定期的な健診や適切な受診はとても大切ですよ。
大量出血はあまり該当しませんが、何週間も出血が続く場合は子宮の入り口にポリープができていることも。下着に少量の血液や色の付いたおりものが付着する状態が続くなら、萎縮性腟炎も疑われますね。
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――病院を受診する目安があれば教えてください。
子宮筋腫や子宮内膜症、子宮体がんなどの疑いがなくて、夜用ナプキンが1時間でいっぱいになる日が月経期間中に1日でもあるなら、貧血のチェックや医療機関への受診をおすすめします。
過長月経のほうは少し見極めが難しいのですが、ご自身のこれまでの経験から考えて、明らかに月経が長期化したとか、月経を挟んで2週間以上出血が続くといったときは注意しましょう。
ただ、月経の期間や周期が一般的なパターンと違っていても、それが規則的に繰り返されているなら問題ないことがほとんど。そのことを確かめるためにも、少しでも不安があるときは医師に相談しておくと安心ですよ。
出血に変化が見られたら、デリケートゾーンケアにも意識を向けて
――女性ホルモンの影響による過多月経・過長月経に対しては、どんな治療が行われますか?
40歳前後の人なら、女性ホルモンの影響で起こる更年期の体調不良を防ぐ意味でも、低用量、または超低用量のピルをおすすめします。
ただし、ピルは年齢が高くなるにつれて血栓症のリスクが上がるため、40代後半から始めるのはあまり望ましくありません。40代後半からはHRT(ホルモン補充療法)を検討しましょう。それ以外では、漢方を使って様子を見る方法もあります。
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――更年期の月経の変化は、自身の体調と向き合うチャンスかもしれませんね。
月経時の経血量や期間などの変化をきっかけに、更年期と上手に付き合っていく方法が見つかるといいですね。併せて、デリケートゾーンとの向き合い方も見直してみると、より快適に毎日を過ごせるかもしれません。
女性ホルモンの減少は、腟の自浄作用を低下させるため、細菌や雑菌が入り込みやすくなります。正しいケアをしないまま大量出血やダラダラ出血が続くと、細菌が増殖してさまざまなトラブルを引き起こす場合があるので注意しましょう。
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月経の出血量が変わってきたら、忙しさにかまけてナプキンの交換をおろそかにしたり、ボディソープでサッと洗い流したりするだけのケアは避けてください。月経のときはもちろん、それ以外のときも、デリケートゾーン専用のソープや保湿剤を使った丁寧なケアを心掛け、トラブルを未然に防ぎましょう。
また、すでにデリケートゾーンケア用品を使っている方は、ケア用品の質も見直してみてください。
おすすめは、強すぎない洗浄力で腟内を正常な弱酸性に保ってくれる乳酸菌が配合されているものが良いですね。パッケージに「乳酸菌配合」と記載されているかどうか、一度確かめてみてくださいね。
大量出血やダラダラ出血は、女性なら誰でも経験する可能性があること。適切な対処と正しいケアで、不安定な時期を乗り越えましょう。
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→ハイメディック東京日本橋コース
月経の仕組みをおさらい
ここからは、吉形医師のお話を踏まえたうえで、過多月経に関する情報を紹介します。まずは、月経の仕組みを改めておさらいしましょう。
そもそも月経とは、約1か月に1回、不要となった子宮内膜が血液とともに体外に排出される現象のことです。
女性の体は、思春期を迎えると、女性ホルモンのはたらきにより一定のサイクルで排卵が起こるようになります。このとき子宮では、受精した卵子を受け止められるように、子宮内膜を厚く膨らませて備えています。しかし、卵子が受精しなかった場合は子宮内膜が不要になるため、体外に排出される月経が起こるのです。
血の塊が出たときはどうすればよい?
血の塊が出た際は、塊の大きさや経血量をチェックすることが大切です。レバー状の大きな血の塊が頻繁に出ている、あるいは経血量が異常に多い場合は、念のため婦人科を受診することをおすすめします。
月経時に流れる血のほとんどは、酵素の力によって液状となっているため、基本的には塊になりません。経血量が多いときに血の塊が混じることはありますが、ナプキンを交換するたびに血の塊が出ているときは、通常の月経よりも経血量が多い状態だと考えられます。
月経時の出血が多いときのセルフチェックポイント
血の塊が出て不安な方は、婦人科を受診する前に、セルフチェックをしてみてはいかがでしょうか。過多月経かどうかを判断する際のポイントは、以下の通りです。
過多月経のセルフチェックポイント
- 日中や夜間、夜用ナプキンでも1~2時間以内の交換が必要
- 1回の月経期間中に、レバー状の大きな血の塊が何度も出る
- 以前よりも経血量が増えたと感じる
- 酷い月経痛に悩まされている
- 動悸や頭痛などの貧血の症状がみられる
- 健康診断で貧血を指摘されたことがある
これらの項目に当てはまる場合は、過多月経の可能性があるため、早めに婦人科にて検査を受けると安心です。
月経時の出血が多いときに考えられる病気
経血量が多くなるときに考えられるのは、主に良性疾患です。以下では、どのような病気なのかを詳しく解説します。
機能性月経過多症
子宮や卵巣に異常がみられない、体質や凝固機能異常。ホルモンバランスの乱れなどが原因となり、経血が多量で日常的に支障がある、あるいは貧血を呈するほどの場合は治療が必要です。
子宮筋腫
子宮筋腫は、子宮の筋層の中で発生する、良性の腫瘍です。閉経後は縮小しますが、幅広い年代の女性が発症するおそれのある疾患として知られています。良性の腫瘍とはいえ、大きさや発症部位により体に不調をもたらしかねないため、しっかり経過観察したいところです。
子宮筋腫ができると、経血量の増加や、それに伴う貧血の症状が表れることがあります。良性の腫瘍である子宮筋腫は、すぐに対処しなければならない疾患ではありませんが、このような症状に悩まされる場合は治療を検討するのも一案です。
子宮腺筋症
子宮腺筋症とは、筋層の中に、子宮内膜と似た組織が発生する疾患のことです。強い月経痛と過多月経が主な症状です。
子宮腺筋症には、女性ホルモンの一つであるエストロゲンが影響しています。月経のある間は症状が進行するため、日常生活に支障をきたす場合は、早いうちから婦人科を受診することが大切です。
なお、エストロゲンの分泌量が減少して閉経すると、子宮腺筋症の症状は改善が見込めます。症状が軽く閉経も近いのであれば、治療を急がなくとも問題はありません。
子宮内膜症
子宮内膜症とは、骨盤内や卵巣などに子宮内膜と似た組織ができる疾患のことで、女性のライフスタイルの多様化により増加傾向にあります。女性ホルモンが影響しているため閉経後は改善が期待されますが、卵巣にできる内膜症は将来的に卵巣がんのリスクが増える場合があり、閉経後の定期的なフォローが必要です。
卵巣がんの罹患率は、40代から更年期以降にかけて増えることがデータで示されています。卵巣がんの症状が確認できた頃には、すでにステージが進行しているケースも少なくないため、子宮内膜症は早期の段階で治療することが大切です。吉形先生の著書でも、以下のように説明されています。
子宮内膜症由来の卵巣がんは日本人で増えています。好発年齢である40代から更年期以降の人はとくに注意しましょう。「子宮内膜症になったら早期に治療する」。これは卵巣がんにおける非常に有効な予防策の一つです。
引用元:吉形玲美『40代から始めよう!閉経マネジメント 更年期をラクに乗り切る、体と心のコントロール術』p.179
子宮内膜症の主な症状は、酷い月経痛や過多月経です。このような症状に気づいたときは、婦人科の受診を推奨します。
参照元:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#a14
過多月経の治療方法
治療法は大きく 1.薬物療法と、2.手術療法に分けられます。
1. 貧血改善をするための鉄剤処方に加え、さまざまなホルモン治療があります。
2. 子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症は、それぞれの病状・病態に応じて手術療法が行われます。ホルモン治療との組み合わせも多く行われます。
主なホルモン治療
低用量ピル
避妊薬としても知られる低用量ピルは、排卵を休止させることで女性ホルモンの分泌を抑える薬剤です。結果として子宮内膜が厚くならず、経血量を減少させることが可能です。このような理由から、低用量ピルには過多月経の症状をやわらげる効果があります。
プロゲステロン(黄体ホルモン)療法
プロゲステロンも低用量ピル同様に排卵を休止させ、子宮内膜を薄くして整えるはたらきをもちます。そのため、プロゲステロン製剤を服用することでも経血量を減らせます。
プロゲステロン製剤は、低用量ピルとは異なりエストロゲンが含まれていないことが特徴で、体内濃度の減少が早いため、現在日本で処方されている薬剤は1日2回服用する必要があります。
ミレーナ(子宮内黄体ホルモン放出システム)
ミレーナとは、子宮内に装着し、黄体ホルモンを放出する器具のことです。プロゲステロン製剤と同様に、黄体ホルモンによって経血量を抑える効果があります。
ミレーナを装着した状態では、継続的に黄体ホルモンが放出されるため、プロゲステロン製剤を服用しなくとも子宮内膜を薄くすることが可能です。この効果は、最長で5年間持続します。
偽閉経療法
人工的に閉経と同じ状態にすることによって月経を休止させる、偽閉経療法とよばれる方法もあります。偽閉経療法では、閉経と同程度までエストロゲンの分泌量を抑え、卵巣機能を低下させます。
ただし、偽閉経療法は閉経後と同じ状態になるため、人によっては更年期症状がみられる場合があります。また、長く継続すると骨粗しょう症のリスクが高まるため、1年のうち6ヶ月を超える治療はできません。
その他の治療
マイクロ波子宮内膜アブレーション(MEA)
マイクロ波子宮内膜アブレーションとは、子宮内膜にマイクロ波という電磁波を照射し、組織を破壊する治療のことです。子宮内膜の機能を低下させ、厚く膨らまないようにして経血量を減らします。
妊娠を希望される方は受けられませんが、「閉経までのあいだ、手術をせずに経血量を抑えたい」とお考えであれば、検討してみてはいかがでしょうか。
閉経前後ではホルモンバランスの乱れで月経時の出血が多くなることも
今回は、吉形医師のお話とともに、経血量の増加を招く病気や過多月経の治療方法を解説しました。
閉経前後に経血量が多くなる原因としては、女性ホルモンのバランスの乱れや、前項の病気も考えられます。過多月経に悩まされているのであれば、婦人科の検査で原因を明確にしたうえで、適切な治療を受けることが望ましいといえます。
閉経が近くなると表れる月経時の不調は、正しい知識を身につけて乗り越えていきましょう。
『40代から始めよう!閉経マネジメント 更年期をラクに乗り切る、体と心のコントロール術』
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産婦人科医である吉形玲美医師が、閉経までの仕組みや更年期の不調への対処法、
そして気をつけたい病気に備える方法について、わかりやすく解説しています。
前向きに閉経を迎えるために、ぜひお役立てください。
※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
この記事を監修した人

吉形 玲美 (よしかたれみ) 医師
医学博士/日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
専門分野:婦人科
産婦人科臨床医として医療の最前線に立ち、婦人科腫瘍手術等を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、月経不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。
2022年7月「40代から始めよう!閉経マネジメント」(講談社刊)を上梓。
2023年9月より「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」副理事長に就任。
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